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新しい時代のビール体験 (キリン 晴れ風)


●晴れ風はなぜ売れたのか

ビールは世界から愛されているお酒の1つである。日本でもビールは多くの人に飲まれており、酒類の中で不動の地位を築いている。最も記憶に新しいのは、2024年04月02日にKIRINから新たに発売されたレギュラービール「晴れ風」だ。この商品は発売前から話題となっていた。そして、発売から売り上げを伸ばし続けている。今回は、「晴れ風」が売れた理由について、考察を論じる。

●商品概要

KIRINの新商品「晴れ風」の特長を詳細に解説する。以下に述べる製品は、麦芽100%の使用、日本産希少ホップ「IBUKI」の採用、酸味の抑制という三つの主要な特長を有する。これらの特長は、ビールの品質向上に寄与しており、それぞれの要素がどのように製品に影響を与えているかについて考察する。

1. 麦芽100%

まず第一に、当該ビールは副原料を一切使用せず、麦芽100%で製造されている。これは、麦のうまみを最大限に引き出すことを目的としている。副原料を使用しないことで、麦本来の風味がそのまま反映されるため、雑味のないきれいな味わいを実現している。この製造方法により、ビールの純粋な風味が堪能できる製品となっている。麦芽100%の使用は、ビールの品質を高めるための重要な要素であり、製品の特徴を際立たせる要因の一つである。

2. 日本産の希少ホップ「IBUKI」を採用

次に、このビールは日本産の希少ホップ「IBUKI」を使用している点に特徴がある。「IBUKI」は爽やかな柑橘香を持つホップであり、その香りがビールに奥行きを与える。ホップの添加タイミングにも工夫が施されており、香りが奥ゆかしく、穏やかに漂う設計となっている。このようなホップの使用により、ビールはただの飲み物にとどまらず、香りの楽しみを提供する製品へと昇華している。希少ホップの採用は、製品の付加価値を高めるだけでなく、消費者に新たな体験を提供するものである。

3. 酸味の抑制

最後に、ビールの飲みやすさに大きく影響を与える酸味の抑制について述べる。当該ビールは、仕込工程と発酵工程において特別な工夫が施されている。これにより、過度な酸味が抑えられ、まろやかな味わいとスムースな口当たりが実現されている。ビールに含まれる酸味は、飲みづらさの原因となることが多いため、その抑制は消費者にとって重要な改良点である。このような工夫により、ビールの飲みやすさが向上し、幅広い層の消費者に受け入れられる製品となっている。

●「晴れ風パッケージ」について


テーマ:“品質感×現代性”を兼ね備えたデザイン

堂々と配された聖獣麒麟と、独自のブルーのカラーリングにより、品質感と現代性を体現したデザインである。また、パッケージ裏面の二次元コードから専用サイトにアクセスし、「晴れ風ACTION」と題した、日本の風物詩の保全や継承を支援する取り組みに参加することができる

●「晴れ風ACTION」について

<取り組みの背景>

100年以上にわたり、ビールは多くの人々にお花見や花火など「日本の風物詩」とともに楽しまれてきた。しかし、自治体の資金難や少子高齢化、気候変動などによりこれらの風物詩を保全・継承できず、消失する危機にある地域もあることが明らかとなった。ビールと関係の深い「日本の風物詩」を守りたいという開発者の願いから、「晴れ風」はその一部売上を活用し、継承の危機にある地域の桜や花火などと関わり、持続的な支援活動を行う。

<概要>

■テーマ:4月2日(火)からは第一弾として、日本全国の「桜」をテーマにした応援活動をスタート。目標金額4000万円(5月21日好評につき目標金額達成)
■寄付金対象・用途:テーマごとに、公募審査により選出した全国の47自治体(市区町村)にて、「日本の風物詩」を保全・継承する活動の資金の一部として活用。
■第一弾「桜の保全活動」対象自治体一覧(43自治体)

■参加方法:

①「晴れ風」の購入、 350ml 1缶につき0.5円、500ml 1缶につき0.8円が自動的に寄付。
② また缶の裏に印字された二次元コードなどから専用サイトにアクセスすると、1日1回0.5円分の“晴れ風コイン”が無料で付与され、応援したい自治体を選んで寄付することが可能。
③ 専用サイト上では、本取り組みの寄付総額を確認できるほか、それぞれの桜に対して応援メッセージや写真を投稿できる機能、さらに「晴れ風ACTION」への参加証明書をSNSでシェアすることも可能。

今回KIRINが新発売した「晴れ風」は飲みやすさにこだわり、若者にも好まれる味を意識していることが、産経ニュースの取材内容(資料1)から分かっている。そのため、飲酒についての若者の動向について次に考えていく。

●消費者の動向

日本国内のアルコール出荷量を見ていくと、平成6年を境にビール類の出荷量は年々減少傾向にあることがわかる。また、変わって年々リキュールの出荷量が伸びていると読みとることができる(図1)。

次に、今後の消費に大きく関わるとされているZ世代のアルコール消費量について考えていく(図2)。国内市場において成人人口1人あたり酒類消費量については、平成以降最低を更新している。これは消費者の低価格志向、働き方の多様化や食生活の変化や健康志向といったライフスタイルの変化が影響していると考えられる。

また、以下の表(図3)を見ると、「ほとんど飲まない」「やめた」に該当する人は「飲めるけれどあえて飲まない」層に該当していることがわかる。
「飲めるけれどあえて飲まない」層は、全体から見ると17.9%、男性16%、女性19.8%となっている。20代に限定して見てみると、男性では26.8%、女性では27%となっている。「飲まない(飲めない)」層は20代が29.9%であるが、70代は49.4%となっている。このことから、20代の割合が多いわけではないことがわかる。

加えて、20代の「飲めるけれどあえて飲まない」層はやや多い割合になっていると分かる。

このことから、今回KIRINが新発売した「晴れ風」は20代が好む味や飲みやすさにこだわっている点や、ビール離れと言われている20代の男女の新規顧客獲得や消費行動の促進をできている点の2点が販売促進につながっていると見込める。

●他社比較

次に、ターゲットについての他社比較を行う。今回は「スーパードライ」を発売しているAsahi、「PREMIUM MALTS」を販売しているSUNTRY、「晴れ風」を販売しているKIRINの3社で比較していく。

まずは、Asahi 「スーパードライ」は広告に起用しているタレント(資料2)から50〜60歳をターゲットとしているように見える。続いて、 SUNTRY「PREMIUM MALTS」は当時のサントリービールマーケティング本部プレミアム戦略部長の言葉(資料3)より若年層を意識していることがわかる。そしてKIRIN「晴れ風」もまた、20代の若者をターゲットとしている。これをポジショニングマップに置き換えると以下になる(図4)。

SUNTRYは飲める若年層に「〈香る〉エール」を筆頭とした少しリッチな体験を届けるプレモルシリーズを浸透させてきている。対してKIRIN「晴れ風」は20代を意識し、味だけでなく、話題性により飲んでみたさを思わせている。この「挑戦しやすさ」の部分が、発売当初からの売り上げを伸ばしている要因の一つだ。

これらを踏まえて、KIRINはターゲットに対しての印象や切り口に変化をつけ、他社との差別化を図っているということがわかった。

●広告効果〈オンライン広告〉

 「晴れ風」の好調要因の一つに広告が挙げられる。まず、キリンビールは「晴れ風」の名前を隠した広告を打ち注目を集めた。

Xでは、発表の3日前から商品名を目黒蓮が隠した写真をカウントダウン方式で発表した。この投稿は、7月9日、現在、5万いいねを獲得している。また、3月30日、31日に渋谷ヒカリエ広場、名古屋KITTE、阪急ビッグマン前広場に「晴れ風」の名前が隠された巨大ビール缶が出現した。巨大ビールの写真を撮ることができるだけでなく、Xにて「#キリン晴れ風」イベント会場の写真をつけて「#街中にキリンの新ビール」と投稿すると限定ステッカーをプレゼントするイベントを実施した。

さらに、キリンビールはプロモーションの一環としてプレゼント企画を実施した。名前発表前には、ビールの名前予想を公式アカウントのタグ付けと共に投稿した人に抽選で2000名に「キリンビール晴れ風」(350ml*2缶)をプレゼントした。さらに発売後の4月26日にはキリンビールアカウントフォロー&リポストで「キリンビール晴れ風」(350ml*2缶)を抽選で3000名様にプレゼントした。その結果、約280万件のXでの発話が生まれ、大きく話題化に繋がった。

●マスメディア広告

他にもキリンは、マスメディア広告を展開した。三週間に渡り、渋谷駅や東京駅、新宿駅などのターミナル駅で交通広告が出現した。

TVCMでは、内村光良(59)、天海祐希(56)、今田美桜(27)、目黒蓮(27)が起用された。ビール離れが起きつつある20代とビールを好む50代をターゲットにしていることが起用俳優からも見て取れる。さらに内村光良、天海祐希は、明治安田生命が新入社員に毎年実施していたアンケート調査で、理想の上司ランキングの2024年の男性1位、女性2位をそれぞれ獲得しており、若者からも高い支持を集めている二人である。

C M内では、「晴れ風」のパッケージのターコイズブルーをバックに、出演者全員が白い洋服を着ている。内村光良は「晴れ風」のおいしさを噛みしめ、天海祐希は商品を両手に持ち、「晴れ風です!」と嬉しそうに宣言している。さらに、目黒蓮は新商品の名前をやっと言えたことに感激し、「やっと言えます」と喜びを表している。そして、今田は両手を大きく広げ、「お披露目でーす!」と満面の笑みである。使用されている楽曲は、THE BOOMの「風になりたい」のリメイクである。

セットとそれぞれの晴れやかな表情、BGMから爽やかな季節の風を感じさせるようなCMとなっている。その結果、キリンビール『晴れ風』がCM好感度ナンバーワンに輝いた。(調査期間:2024年3月20日〜4月19日)

これらのことから、広告の活用が接触効果、心理効果をもたらし、販売促進に繋がっていることがわかる。

参考文献

・PRtimes記事 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000922.000073077.html
・日経クロストレンド https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00947/00043/
・PRtimes記事 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000922.000073077.html
・朝日新聞独占取材記事 https://www.asahi.com/ads/tu/15198674
・(資料1)産経ニュース
https://www.sankei.com/article/20240326-7MHIQBKHVZAJXDROWUPAJRPQFA/photo/VKS6CMBNHBJGRPWRLXZCMUPPO4/#:~:text=%E4%BA%BA%E4%BA%8B%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B9-,%E3%82%AD%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%80%81%EF%BC%91%EF%BC%97%E5%B9%B4%E3%81%B6%E3%82%8A%E3%81%AE%E6%96%B0%E3%83%93%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89%E3%80%8C%E6%99%B4%E3%82%8C%E9%A2%A8,%E3%81%AF%E9%A3%B2%E3%81%BE%E3%81%AA%E3%81%84%E8%8B%A5%E5%B9%B4%E5%B1%A4&text=%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%AB%20%EF%BC%9A,%E7%94%A3%E6%A5%AD%E3%83%BB%E3%83%93%E3%82%B8%E3%83%8D%E3%82%B9
・酒のしおりhttps://www.nta.go.jp/taxes/sake/shiori-gaikyo/shiori/2023/pdf/0001.pdf
・厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告」p.209https://www.mhlw.go.jp/content/001066903.pdf
・(資料2)AsahiビールCMhttps://www.asahibeer.co.jp/superdry/tvcm2011_f/
・(資料3)SUNTORYビールマーケティング本部プレミアム戦略部https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/watch/00013/01561/
・明治安田
https://www.meijiyasuda.co.jp/profile/news/release/2023/pdf/20240221_01.pdf
・CM総合研究所
https://www.cmdb.jp/cmindexweb/cmlikability_202404_20240507/index.html

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