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夏は魔物。



夏がやってきた。


夏。


汗でべちょべちょになるし、暑くてフラフラになるし、アイスの食べすぎでお腹は下すし、正直そんなに好きじゃない季節。


でも、なら、何故こんなに「夏」という季節は私を魅了するのだろう。


むわっとした空気。
日本の夏は湿っていて、ほんっとうに過ごしにくい。
でもこれこそが私の夏。

太陽の、暴力的なほどの光に刺され、いつか体ごと焼け尽くされるんじゃないかと錯覚するほどだ。

植物はめいっぱいにその葉を伸ばし、青々と輝いている。

畑ではすくすくと野菜が育っているようで、スーパーでは見られない生命力が生臭いほど香ってくる。

懸命に鳴き、暑さを助長する虫たち。干からびたミミズを運ぶアリを潰さないようにまたぐ。

まるで絵の具で塗られたかのような青の空。雲は密度が濃くて、やっぱり上に乗れそうな気がする。


夏は、いつもの風景の輪郭を、すごくはっきりとさせる。いつもあるのに気づかなかった「命」に、否が応でも気付かされる。



そして、私たち人間も同じ。
夏は、やっぱり命を強く感じる。


暑い外から帰ってクーラーをつけていたフローリングに裸足で飛び乗る時の幸福は、生きているという感覚に近い気がする。

どこからこんなに出てくるんだという程の汗。虫に刺されれば赤くぷくっと肌が腫れる。私たちの意図とは全く別のところで生命が維持されていると感じる瞬間。


頑張って生きようとしている。



夏のせいにしてしまおう。

暑さでおかしくなった私たちは、勢いと若さのまま、全身全霊で恋をする。ドロドロになって仲間と運動する。言えなかったことも全部言う。出来なかったことも全部やりたくなる。その反面、怠惰な瞬間も味わいたくなる。

夏は、私たちをわがままにさせる。



ほら、今年も私は、夏に魅了されている。



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