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アウフヘーベンの牢獄

巷で話題(?)のイマーシブミステリー「アウフヘーベンの牢獄」12月11日(土)回に参加(と表現するのだろうか?)しましたので、その感想をつらつらと書いてみたいと思います。

これは新世代型エンタテインメント


まず結論から言えば、これは完全に「新世代型エンタテインメント」だと感じました。

とは言え、コンテンツ自体に物凄い新規性があるということでなく、むしろ「新規性」という軸で見てしまうと、その要素は限りなくゼロに近いものです。

内容は「謎解き」と「即興劇」そして「コメントチャット(オープンチャット)」があるだけで、それらの組み合わせでしかありません。これが良い悪いではなく「新しいコンテンツ」として認知されるものであっても、完全にゼロから生まれるものなど、そうそう存在せず、なにかしら既存の要素を組み合わせたものであることが多いかと思いますので、要素をリビルドして新しいコンテンツとして押し出していくことは平素なことだと思います(マーダーミステリーもそうですしね)

話を戻して、私が「新世代型」と感じたのは、「楽しみ方」とでもいいましょうか、どこかSHOWROOMに既視感を感じましたが、画一的な双方向性コンテンツとしての楽しさの提供……「ほのかな双方向性をもちつつ、演者を観て楽しむ」という点で、それを求めている方たちにとって優れたコンテンツだったのではないか?と感じた次第です。

youtubeなどもそうですが、若い世代の方々は、テレビのように楽しさを詰め込んだ構成より、すっぴんメイクのような、日常や空気感を伝える構成を好むと言われています。そういう人たちにはきっとグサリと刺さるコンテンツだったのではないでしょうか。

■良かった点

アウフヘーベンの牢獄の良かった点の一つ目は「構成」です。
あまり詳しくは書けませんが、ストーリーがあって、要所に謎があって、謎を解くとその結果ストーリーが進んでいく。文字で書くと当たり前のことに見えますが、これを無理なく組むのはなかなか難しいものです。更にそこに観客であるプレイヤーを絡めて行かなくてはならないのですから、これを1時間半ほどでまとめる能力は凄いと思います。

そして二つ目は、演者の演技……というか進行でしょうか。
リアルタイムで演技をしながら進行していくのもかなり難しいと思います。しかも全て独り芝居です。少なくとも画面内では誰も助けてくれませんし、なにか間違えたとしても、シリアスなストーリーなので舌出してゴメンできるわけでもありません。とても良かったと思います。

■悪かった点

正直、悪い点は良い点に比べてかなりありますが、大きく4つの欠点があったと考えています。

1.3窓進行

3窓使う進行は端的に無理です。処理能力云々ではなく、一つの作品が、謎解きとストーリーとチャットでセパレートになってしまい、1つに集中することができず、どれを楽しむにも中途半端になってしまうためです。

とはいえ、既存のシステムを使わずに同じことをしようとすれば予算が厳しいことも容易に想像がつきます。運営としては苦肉の策だったのかもしれませんが、結果的に満足度を下げるのであれば、せめてコメント可の、チケット購入者のみ視聴できる配信プラットフォームを探すなどしてみても良かったのでは?と思います。
(youtubeは規約的にyoutube以外で収益を得る動画は不可なので使えずに困ったのかも?ZOOMのチャット開放は使いにくいんでしたっけ?)

2.コンテンツ同士の相性の悪さ

アウフヘーベンの牢獄は「イマーシブミステリー」というジャンルになっており、謳い文句として「演劇×ゲーム×謎解き」と書いてありますが、正直、個人的にはこの3つの相性はバツグンに悪いと思っています。

ただ、「相性が悪い」というだけで、それを上手くまとめ上げることが出来ないというわけではなく、例えば、先日参加した「作家Qと解答者Aの不思議な関係」は、比較的うまく融合させていたと思います。

アウフヘーベンの牢獄は、演劇と謎解きそれぞれについては出来ているのかもしれませんが(ゲームには正直なっていないと思います)融合しているかと言えば、それは全くのNOだったのではないでしょうか。

特に、アウフヘーベンの牢獄に限ったことではないのですが、謎解きが9割方「ストーリーに関係のないただの論理パズル」になっていて、個人的な好みの話かもしれませんが、あまり好きではないです。単体の謎解きとしてはちゃんと出来ているとは思いますが、ストーリーがシリアスであるほどなぜ、

ストーリーに関係のない動物のイラストから
ストーリーに関係のない法則探って
ストーリーに関係ない文字抜き取って
ストーリーに関係ない単語を解答欄に書かなければならないのか

となります。(これらは例示でありフィクションです)

また、謎解きに集中すれば演者の画面は見えませんし、演者の画面を見たままでは謎解きもできません。特にアウフヘーベンの牢獄は、アーカイブ視聴もできないため、他方を後から補完することも出来ません。演劇1:謎解き1=併せて2のコンテンツ力があるにも関わらず、同時進行ゆえに双方をツギハギして総じて1しか摂取できないことになります。本当に勿体ないなと感じました。

余談ですが「演劇×ゲーム×謎解き」を最初に見たとき(参加前)

演劇×
ゲーム×
謎解き

とも読める(要は「演劇でもゲームでもなく謎解き」と読める)なんて冗談を言ったのですが、当たらずも遠からずといった印象でした。

3.新世代型コンテンツ

これはあくまで個人的な所感で、前述したように今の若い方たちとは意見が違うかもしれません。

物語は非常に受動的です。能動的に動かなければ摂取出来ないコンテンツよりは、多少受動性のあるコンテンツを私も好むのですが、正直、アウフヘーベンの牢獄において、流石に全員が謎解きを放棄したらどうなるのかは分かりませんが(運営の操作でなんとでもなりそうですが……)私一人くらい、謎解きをせずただZOOMを観る「完全受動」も可能です。

ただ、zoom画面を観ているだけで面白いか否かは話が別です。

zoom画面では演者がストーリーを進めていくのですが、その発言を聴いていると「〇〇さん、もう(謎が)解けたんですか?すごいです」「〇〇さん、そうなんですね。ありがとうございます」といったように、チャットから発言者の「名前」を拾って一言付け加える発言が多く、ヒント発言も含め謎を解いている場面では「演技」があまり感じられませんでした。正にSHOWROOMの世界。ひたすら「〇〇さんこんにちは」「〇〇さんありがとう」の発言を繰り返すあの世界を思い出しました。

しかし、何度も言うように、これはもう新しい世代の楽しみ方なのかもしれません。私はそこに虚無を感じましたが、少なくとも演者のファンの方はメチャクチャ嬉しい&楽しいことは想像に易いです。私だって、演者がムロツヨシさんだったらメチャクチャ楽しかったと思います。ただ、それはもう「イマーシブミステリー」である必要は全くないのですが……。

これは私が老害なだけで、演者のファンならずとも楽しめるのが今の世代なのかもしれませんね。

4.バックボーンの不明瞭さ

ネタバレしないように書くのは難しいのですが、キャラクターの背景的なものがまるで知らされていないため、個人的に目の前の演者(キャラ)に興味を持ち続けるのが難しい内容でした。

もちろん背景は少しずつ明かされていくわけですが、とてもミニマムな範囲であり、感情が揺さぶられるほどではなく、無機質な(物語上の)事実以上の捉え方はできなかったのです。

たとえば、目の前で子供が車に轢かれて亡くなったとします。
たしかに「子供が亡くなる」という事実には多少悲しいイメージがありますが、その子供の背景を全く知らなければ、「不幸な事故」以上の認識は生まれないでしょう。しかし、その子供が知り合いだったら?一度でもその子供の無邪気な笑顔を間近で見ながら会話をしたことがあったなら?きっと何倍もの「悲しさ」が付与されると思います。背景を知れば共感性が生まれる訳です。この仕掛けが圧倒的に欠けていたと思います。

これがゲームであって、ゲーム部分をクローズアップした作りであれば、その共感性はあまり重視しなくてもよいのかもしれません(実際マーダーミステリーに於いて、短時間の作品はを私はそのように組んでいます)
アウフヘーベンの牢獄は前述しましたが「ゲーム」にはなっていないかと思いますので、本来キャラクター性を必要としない「謎解き(論理パズル)」と融合させるなら、融合させた意味を持たせるためにも、もっと共感性を煽り、魅力的なキャラクターに仕上げる工夫があっても良かったと思います。

0.その他細かい点

細かい不満点もいくつか挙げておきます。

今回、仕事の都合で「ギリギリアウト(5分経過後にIN)」したのですが、オープンチャットの案内が開演前(直後?)にあったらしく、しばらくオープンチャットに入る術がありませんでした。(運営にDMしてアドレスを教えて貰いました)もちろん、遅刻しなければ済む話なのですが、運営として想定はした方がよかったのではないかなと。

オープンチャットも先週の反省を踏まえて3種類用意したようなのですが、そのうち私は2種類を行き来していたため(残り1種類は先週参加した方用)単純に窓が4つに増えた形です。先週あった問題は多少解決したのかもしれませんが、初回参加だった私はこの不便さを端的に不満事項として捉えました。

また、途中でWeb検索を用いる場面があるのですが、私の端末(PC/Google)では、目的の検索結果が「ひとつも引っかからなかった」のも不満点です。もしかしたらスマホのブラウザならすぐ検索できたのかもしれませんが、その辺の検証も、もう少しして欲しかったなと思います。

謎解きの難易度は簡単な方だったのではないでしょうか。謎解きをあまりやっていない方もいると思うので、それ自体は問題ありませんが、最後の謎だけ仕掛けが分かった時点(謎が全部解けたわけではなく)で、ちょっと面倒くさくて手を止めてしまいました。不満というほどでもないですが、これは小さな歪として。

最後に「誰でもクトゥルフ知ってると思うなよ」は言っておきたいし、クトゥルフ扱うなら、事前に絶対告知すべきとも言っておきます。特にミステリーとの相性は最悪です。クトゥルフと(知らされてないうえで)聞いた瞬間に「なんだよ、なんでもアリじゃん。真面目に考えて損した」って、少なくとも私はなります。興ざめです。


■総評

総評として「どの要素を楽しむべきか、その理解が難しいコンテンツ」というのが率直な感想です。全体がバラバラとしていてまとまっておらず、要素のリビルドが上手くいっていない印象でしょうか。

100%間違いないのは「演者のファンは楽しめる」と言うことです。惜しむらくは、その層の満足度を追求するのであれば、今回のような提供形態や構成でなくても良かったのではないか?とも思えます。

とはいえ、意欲的なコンテンツの門出は喜ばしい事です。
今後も意欲的で楽しいコンテンツが出て来ることを期待しています。

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