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ひとつひとつ、自分の人生の主導権を取り戻す

自分の幸せは何かを、死ぬまでに見つけられた人は幸運だと思う。それこそ、自分の幸せは何かを見つけられることが幸せと言ってもいいかもしれない。

何が幸せかなんて、体験してみないとわからないのに、考える暇もなく人生のステージはテンプレに沿って進んでいく。ちょっと待って!考えたいのに!って思っても、一度転げ落ちたらなかなか戻れないから、とりあえずみんなに合わせて走り続けるしかない。そこから勇気をもって飛び出した人や、望んでいないのに転がり落ちてしまった人だけが、もしかしたら自分の幸せの形をいろいろ試してみるチャンスを得られるのかもしれない。

わたしは就職もできず、子どもも持てず、いわゆる転がり落ちた人なのだけども、それでも自分の幸せが「自分の時間を主体的にコントロールできること」だなんて、ずっと気が付かなかった。院生のときは毎日朝から晩まで実験に追われていたし、売れない作家のときは時間があってもお金がなくなるのが怖くてバイトばかりしていたし、塾講師とライターとして自活できるようになってからは仕事を引き受けすぎてやっぱり時間に追われていたし。去年の1学期に、塾がコロナで休校になって、ぽっかり時間ができたときに初めて、締めきりに追われ過ぎず、お金の心配もせず、家で自分の好きなように時間を使うことができて「ああ、なんて幸せなんだろう!」と気が付いた。

それまでは自分の幸せを勘違いしていた。お金をたくさん稼いだり、人からすごいと言われたり、有名になったりすることが幸せだと思っていた。この間違った幸せに向かって走っていたら、ますます時間はなくなるし、有名になったら時間も行動も不自由になる。もしかしたら、一生幸せになれなかったかもしれない。それも誰かのせいではなく、わたしがわたしを幸せから遠ざけ続けていたかもしれない。

何かから追い立てられたり、行動を縛られたりするのが、嫌だ。嘘をつきたくないし、建前のために意に反することもしたくない。だけどずっと、わたしは「お金」や「時間」に支配されていた。わたしのお金、わたしの時間のはずなのに、お金や時間が要求してくることに振り回されて、忠実なしもべのように、自分のやりたいことを殺して、仕えていた。

でも、主人はわたしだ。お金も時間も、わたしを幸せにするために存在する。仕事の休憩時間を決めて、自由な時間を楽しめるようになったとき、わたしは時間に対して主導権を取り戻したと感じて、ものすごく嬉しかった。お金に振り回されずに、自分のやりたいことや休息の時間を優先して引き受けるかどうかを決められたときも、主導権を取り戻したと思えて、心から安堵した。

わたしが主人なんだから、と何度も自分に言い聞かせる。お金と時間に対して、もしちゃんとコントロールできるようになったら、次は「物」に対して主導権を取り戻したい。わたしの持ち物のはずなのに、持ち物がわたしを支配している。わたしを憂鬱にさせたり強迫観念に駆り立てたりわたしらしくないことをさせようとする。それを変えたい。

今日のnoteの画像は自分でイラストを描いてみた。MONEYとTIMEとTHINGSと、わたし。こんな感じの関係が理想だ。でも今はまだ、この3つがわたしに覆いかぶさって、わたしを支配して追い立てている。

少しずつ、ひとつずつ、人生の主導権を自分の手に取り戻そうと思う。

休憩時間を設定したら、仕事以外の本を読めるようになった。最近は『必読書150』のリストに載っている本に挑戦している。プラトンやアリストテレスから始まる人文科学系の本を50、世界文学50、日本文学が50。9月になったら少し余裕ができる(はず)。純文学の賞に挑戦しようかと思ったけど、自分の中に何も書けることがないことに気が付いた。必読書150を読んで、わたしは小説というものをまだまだ知らないし、これまで紡がれて来た思想のことも何も知らないと思った。そして、それを知らずに死ぬのは惜しいなと思った。

そんなふうに思ったきっかけは、もし命があと残り1か月だとしたら何がしたいかという質問を自分にしてみたことだ。昔のわたしなら1か月で後世に残る名作を書く、なんてことを言っていたかもしれない。でも、今は、死んだ後の自分の評判なんてどうでもいいなと思った。それよりも、自分が生きたこの世界がどんな世界だったのか、目に焼き付けておきたい。まだ見ていない自然や絶景を見に行きたいと思った。そんなふうに思う自分が意外だった。(この願いは、死ぬ1か月前には叶えるのが難しそうだから、コロナ禍が過ぎ去ったら実現しようと思う)。

その延長線上に、『必読書150』の名作を読んでみようという気持ちが芽生えたのだと思う。これらを読んでいって、わたしの中に何かが生まれたら、作品にしたい。

【お知らせ】ニュージーランド在住ライターの森野みどりさんが、わたしをインタビューして記事にくれました。小説について、こんなにじっくり語ったのは初めてかもしれない。ご自身も小説を書いている森野さんだからこそ、引き出してくれた言葉たち。よかったらぜひ読んでください。

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