京都幽玄2

ようやくたどり着いたわたしにぴったりの宿について暑苦しく語らせていただく

先日、京都の八坂の塔のすぐ近くにある料亭「京都幽玄」を訪れる機会があった。文豪や名士が集った老舗旅館と旧三井邸をあわせてリノベーションしたお店で、隣の「京都祝言」では八坂の塔を見上げながらチャペルで結婚式ができる。もうなんかもう興奮してわけがわからないくらい素敵な場所。トップの写真は川端康成が『古都』を執筆したという場所の一部で、記念写真を撮らせてもらったのでした。

小説家になる前は、「ホテルや宿に缶詰で執筆」に憧れた。実際に何度も挑戦していて、出張の時は毎回、ようし夜は執筆するぞと思っている。なのにさっぱりまったく進まない。写真のような素敵なお宿ならよいのかもしれないけれど、小さなビジネスホテルの一室では、机は狭いし照明は暗いし、全然気分が乗らないのである。よく考えたら、普段、わたしが一番はかどるのは、ざわざわしたカフェだ。閉塞したビジネスホテルの部屋は真逆の環境である。

じゃあ、出世して高いお金を出して「いい部屋」に泊まればいいんじゃないか。そう思って、取材と称し、奮発していい部屋に泊まったことがあった。でも、まったくもって落ち着かなかった。広いベッドも、ソファーも、高級なアメニティの数々も、隅から隅まで行き届いたおもてなしの心も、貧乏性のわたしには似合わなかった。こういう部屋を楽しめるのは、普段から広い部屋で暮らすのに慣れている人なんじゃないかと思った。

で、たどり着いたのがカプセルホテル。前からカプセルホテルに泊まってみたかった。カプセルという必要最小限の体積の中で寝ることにどうしてこんなに心惹かれるのかわからない。王子様のキスで目覚める白雪姫とか茨姫のイメージがあるんだろうか…って、それって棺じゃないか! いやもう、認めよう。わたしは棺で寝ることに萌えるんだ。ドラキュラも、ミイラの石棺も、冷凍睡眠も、みんなみんなわたしの心をとらえて離さない。
安いからカプセルに泊まりたいわけじゃない。積極的にカプセルで眠りたい。これはもう欲望であり性癖であるかもしれない。

今まではカプセルホテルに女性が泊まるなんて、みたいなイメージだったけど、最近はおしゃれなホテルが次々出てきている。最初に挑戦したのが、飛行機のファーストクラスの座席をイメージしたカプセルホテル「ファーストキャビン」。おしゃれである。ベッドの寝心地もいい。結構広い。だが、カプセル感が足りない。

そしてたどりついたのが、「ナインアワーズ」なのでした。見て(サイトを)、このカプセル感! カイコの繭みたいな! ハチの巣で羽化を待つハチノコみたいな! 落ち着く! 萌える! 幸せ!

しかも、よかったのはカプセルだけではない。わたしの泊まったところは共有ラウンジには大きな電源付きデスクがあって、大きな窓から街を見下ろしながら、英語が飛び交う中、執筆ができるのでした。これぞわたしの理想の執筆環境…! 適度なざわめき(英語なので意味がわからない)、広い机、明るい部屋、電源、適度な人の目(が、ないとさぼる)…!

生物の数だけ住居の形がある。広々とした部屋よりカプセルの方が落ち着く人間だっているのである。ああ、家にカプセル欲しい。棺で寝たい。

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