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出来ないが伝わらない

ギランバレーになっていたけど、
診断が付いていなかった時の事。

ちょうどお盆の時期で、
その日は送り火だった。

私は既に手足に全く力が入らず、
寝てるかイスに寄りかからされているかしか出来なかったので
ひとり部屋に残された状態で、
送り火をするために家族が外に出ていった。

私はぐったりとイスにもたれかかり、
家族の話す声をぼんやりと聞いていた。

暑い時期なのに、急に寒くなる等
その頃から自律神経のせいか気温の感じ方が
急激に上がったり下がったりする私は
家族にひざ掛けを持たされていた。

それが少し体が傾いたせいで落ちてしまった。

いつもならちょっとだけ手を伸ばせば届く。
ボーっとしていたのもあって、思わず手を伸ばそうとしたら
グラっと体が大きく傾いてしまった。

「まずい!」

思った時にはすでに遅く、バランスを崩した体を
立て直す体幹も、足の踏ん張りもなく
手で何かを掴むことも出来ない私は、
ゆっくりと、イスから落ちようとしていた。

それでもまだ、自分の体の状態が分かってなかったので
「あ、落ちちゃった」位の印象だった。

でも地面に体が付いて、顔の左側に上半身の体重がかかり
足はカエル足のような状態で、どんどん開かれていくまま
起き上がることも体勢を変えることも出来ない事に気が付いて
急にパニック状態になった。

股関節は痛みのあまり外れそうな感じがしたし、
顔も押しつぶされそうに痛い。

背中も変な角度のままになっているし、
横向きに倒れる事も、起きる事も出来ず、
思わず家族に「助けて!早く!助けて!」と叫んだ。

何事かと走って戻って来た家族は、
泣きながら叫ぶ私の状態を見て大爆笑。

「何やってんの?」「何て格好してるの」

家族全員から少しの間大笑いされたが、
私が余りにも必死に言うので、助け起こしてくれた。

「泣くことないじゃない」「子供みたい」

何を言われても、出来なかったショックから立ち直れない私。

家族は最後まで笑っていたが、私が無言で泣いたまま
表情を変えないのを見て、今度は怒りだした。

「何なの、その態度」「バカみたい、泣いたりして」

ぷりぷりしながら送り火の片付けに出て行ったけど、
この日のこの事件があってから、もう体の事で
家族に期待するのはやめようと思った。

何となく自分の状態や混乱や色々を分かってくれている
そんな風に思っていたのを反省した。

出来ないという事を伝えるのが
どんなに難しい事なのか。
それを最初に実感した日だった。

その夜は寝られなかった。
イスから落ちていく時の映像が
繰り返し繰り返し思い出された。

そして地面についてからの体の痛みも
お前は動けないんだと思い知らされたあの恐怖も。

その日は一晩中泣いていた。
私は動けないんだ。
それに押しつぶされそうになって
他には何も浮かばなくなっていった。

治療が進んでも、イスに座るのがしばらく怖かったのは
この日の事があったからだろうなと思ったが
嫌がる私は理由を聞かれても答えなかった。
話したら泣きそうだったから。

今でも転びそうになると思い出す。
そしていまだに泣きそうになる。

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