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047 馬鹿の開放

世の中には馬鹿だと思わせる人がいる。
他人に限らず、なんて自分は馬鹿なんだ、と感じることもある。
その馬鹿さを開放したらどうなるか。
まったく馬鹿馬鹿しい話である。

馬鹿っていう人は馬鹿。
相手をののしるのは、自分が馬鹿な証拠である。
相手の気分を害させ、ひいては自分の気分をより悪くさせるからである。
馬鹿と言って伝わるのは、自分の馬鹿さだけである。

馬鹿って言われる人は馬鹿。
そこには馬鹿な行為があるからである。
人格ではなくて行為に対して言われたのである。
それを人格まで対象とするのはやはり馬鹿である。
しかし、それはいう側の基準である。
だから、馬鹿といわれてもピンとこない時もある。

自分もその行為が馬鹿だと十分自覚している時がある。
そんな時に「馬鹿」と言われれば、分かっているのにとなる。
腹立たしく感じたり、悲しくなったり、する。
しかし、この「馬鹿」という人は裏表のない実直な人なのである。

馬鹿な行為をした時、「どうしてしたの?」などとやさしく問われてみる。
なぜ、なぜ、なぜと繰り返し聞かれてみる。
仕舞いには、理屈を並べ立てられて、相手に追い詰められてみる。
言う方は、自分の論理に納得するが、いわれる方には何も記憶に残らない。

言われる方に残るのは、ただ、この行為をすると相手の気分が害するということである。
この人の前では馬鹿なことをできないとなる。
馬鹿な自分を押し込めることになる。
その馬鹿さは貯まり、どんどん馬鹿な自分になっていく。

では逆に「それはすばらしい」と言われてみる。
しかし、相手の本音は馬鹿と見立てているのにである。
悪意のある皮肉に感じられ、怒りが二倍なる。
しかし、それは悔し紛れの悪意である。

相手はただ素直に馬鹿と言えないだけなのである。
いいたくてもいえないやり取りがあるのである。
いえないように仕向けられているのである。
そこに本当の馬鹿な自分がいるのである。

中には本気で「すばらしい」と褒める人がいる。
そんな見立てもあるのかと思うこともある。
しかしなんだか小馬鹿にされているようにも感じる。
どちらとも決めかね、まあいいかとなる。

この「まあ、いいか」で馬鹿の開放である。
否定的な馬鹿さも、素晴しさも中和される。
中和された馬鹿さは、ほとんど意味がなくなる。
そこで捉われている馬鹿さから開放される。

他の人に言われなくても、自分で言えばいいのである。
馬鹿さは克服してはいけないのである。
それは次の馬鹿さを生むだけである。
馬鹿さをただ認める、それで馬鹿さから開放させる。

なにかを馬鹿にする。
それは小賢しいからこそできることである。
賢くなったら到底できないことなのである。
馬鹿(無知)さと小賢しさはほとんど意味に差が無いのである。

馬鹿にするのは、相手をほとんど同じレベルの仲間と認めている証拠である。
それに相手も仲間だからと感じているからかしこまらず馬鹿にしたのである。
そこはなんの諍(いさか)いになりようがないほど一致しているのである。
ただ一方的に言うのも言われるのも平衡が崩れている。

互いに言い合えるようにしなければいけない。
馬鹿を言い合えるのがいい仲である。
しかし、そんな言い合うことは途中の仲である。
いずれは言わなくても通じてしまうことになるのである。

あまり多くないが人に厳しく言う人がいる。
その人は潜在的に厳しく言われることを欲しているのである。
その人以上の理屈と気構えを備えればいいだけである。
そうして、頃合をみて同じぐらいの厳しさでその人の立場を問うのである。
そう欲しているのだから、他に仕様が無いのである。
そうして同格の一人前と認めるのである。

やさしい言い方をする人はやさしい言い方を欲している。
小さい声の人は小さな声を欲している。
相手に合わすとは表層を合わせることである。
深層は合せてはいけないのである。

本当の賢さとは、相手を畏(かしこ)まらせるのである。
本当の賢さとは、その一方的な距離の置かれ方こそを嫌がるのである
その距離感が自分のコントロール下に入っていないからである。
まことの賢さは、賢さを消そうとするところにある。

馬鹿を押し込めると違う馬鹿さになって出る。
抑圧された馬鹿さを相手にするのはまわりも当人も難儀である。
馬鹿さの克服はただの無駄ゼロというよりも、マイナス面が大きいのである。
まことの馬鹿さは、馬鹿さを消そうとするところにある。

人は一方では賢さを求めても他方では同程度の馬鹿さを求めるのである。
その馬鹿さとは、かつて克服されてしまった自分の馬鹿さなのである。
だから馬鹿さとは、ただ懐かしむべきものである。
もともと人はなにも知らない無知(馬鹿)であり、そこに元来の姿があるからである。


#小さなカタストロフィ
#microcatastrophe

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