見出し画像

都会の防災とは 赤坂の話がしたい 13

 東京で、ヘリコプターに一度だけ乗った。
 私の勤める福岡のRKBにも、九州での空撮を一手に引き受けるヘリがある。テレビ中継用の最新装備を搭載した機体を見学したのだ。
 機材の説明を受けながら、赤坂上空に近づくと、「TBSがあるから」と一回りしてくれた。一緒に乗っていた人は、僕がスマホで撮っているのはTBSだと思っていたに違いない。でも、実はTBSの隣の街並み、「中ノ町・新四」町会の写真を撮っていたのだった。
 この写真で言うと、真ん中に縦に走っている2本の通りの両側、ビルの高さが比較的低い一角が、「中ノ町・新四」町会のエリア。左端の森が、赤坂氷川神社だ。

 赤坂は大都会の真ん中、地価は高い。私は単身で1Kの部屋だから借りられているが、家族連れの赴任だったらとても住めなかった。
 マンションを買って移り住んでくる新住民は、やはりそれなりの収入があるだろう。だが、「町会に入ろう」と考える人は、ほとんどいない。
 そんな地域が、首都直下地震に襲われたら……。
 町会が一番気にしているのは、災害時の対応だ。いざという時、自分たちの町をどうするか。すでに、3・11では混乱を経験している。

 赤坂・青山地区の防災訓練に、「中ノ町・新四」町会から参加したメンバーは約15人。場所は、区立青山中学校だ。なんと、神宮外苑のイチョウ並木の隣。すごい場所なのだが、地震体験をしたり、消防団が放水プレーを披露したり、やっていることは福岡と変わらない。
 7丁目の西やんは消防団の分団長。いつもは「紫月」でにぎやかに飲んでるが、今日はきりっと消防半纏に身を固め、小さな歩幅でサッサッサッと走ってきて、スムースな放水の技を披露した。なんだ、かっこいいじゃないか。中ノ町のメンバーから歓声が飛ぶ。
 町会の集まりが終わったら、ファミレスや居酒屋で一杯やるのが恒例だ。「ご苦労様でした」とあいさつに立った寺腰さんは、「中ノ町・新四」町会の町会長を10年務めている。防災訓練があった今日は、やはり災害時の心配も話題に上がる。
 万一の際は、多くの人が一時避難所に来る。町会のメンバーは、日ごろから備えている水や食料、防災グッズを提供する。だが、「遅い、早くしろ」「もっとないの」と、世話に動いている町会の人たちに文句が殺到する……。
 「こっちも同じ住民だっての」と、美容室のタカシさん。「とやかく言うんだったら、やらねえよ!……とは言えないからなー」。居酒屋「花丸」の玉置さんが話を落とすと、みんなが笑った。

 快適でプライベートな暮らし。災害時には一転、水や水道、電気などのインフラが失われる。その時に備えているのは、町会の人たちなのだ。
 これは、福岡で住んでいた箱崎でも同様だろう。「箱崎に戻って自治会の人たちと、またやらんといかんな」
 15人程度のささやかな防災訓練だったが、僕にとってはとても考えさせられるものになった。

 ヘリコプターからスマホで撮った町会の写真をプリントして、寺腰会長やタカシさんたちに配ったら、大喜びだった。それはそうだろう。TBSの空撮はあっても、町会に焦点を合わせた写真はかつてない。「花丸」の壁に貼ってあるのも、僕が撮った写真だ。

(2020年5月26日 FB投稿)

次話 アマノジャク爺 赤坂の話がしたい 14

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?