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【江戸ことば その21】いとこ同士は鴨の味

≪ 2011年、Facebookへの投稿 ≫
講談社学術文庫の『江戸語の辞典』(前田勇編)は1067ページもある大著で、約3万語を収録しています。
私は4年前(注:2006年秋)に「端から端まで読み通してみよう」と一念発起し、4か月半かけて何とか通読しました。今も持ち歩いては、「江戸の暮らしが目に浮かぶ言葉」「現代語の知られざる語源」「色っぽい言葉」を楽しんでいます。
1日に1語程度、ツイッターで紹介してきた江戸語を、Facebookのノートにまとめて採録してみます。
なお、カッコ内は私の感想・コメントで、編者の前田勇さんとは関係がありません。

「いとこ同士は鴨の味」

いとこ同士の夫婦は仲がよく、その情味は鴨の吸物の美味なのによく似ている。

(…当時 よくあった夫婦の組み合わせなんだろう。いとこだとなぜ円満になるのか説明できないが、確かにそうかも)

文例・天保か
「従弟同士は鴨とやら鶩(あひる)とやら言いますから、大方卵もお仕込みだらう」
2011年2月10日 Twitter投稿


私が幼い頃、親戚のおきんおばあさんは、腰の曲がった、小さいおばあさんで、かなりの高齢でした。私にとって、曾おじいさんの妹に当ります。

おきんさんは明治20年(1887年)生まれ。篤太郎さん(唯一、金の字がつかなかった幕末生まれの当主)の長女で、岡部という旧家に嫁に行き、栄信さんの妻となりました。

夫栄信さんの父親は、篤太郎さんの実弟で、私の実家から岡部の家に養子に行った人でした。つまり、おきんさんと夫の栄信さんは、従兄弟だったのです。

栄信さんは、私の生まれる2年前に亡くなっていましたので、夫婦の仲が良かったのかどうか、私は知りません。

おきんおばあさんは亡くなる直前に、病院に私の両親を呼び、にこんな風に語ったそうです。

よく来てくれたね。おばあさんはあなた方に頼みがあったんだよ。もう注射も断って、食べ物も喉を通らない年寄りが、是非、あなた方に頼みたいことがあるんだよ。

おばあさんがあの家で育った頃は、光輝いていたんだよ。おばあさんが嫁いだころは、今のような家ではなく、立派だったんだ。おばあさんは心配なんだ。だから死ぬ前にあなた方に頼んでおきたかったんだ。二人であの家を是非再興しておくれ。もうすぐ死ぬ年寄りがこうして頼んでいる。

それから、子供達の教育をしっかりして下さい。これからは教育が大切。そうして偉ぶらない人間を育てて下さい。人間は偉ぶってはいけない。

おばあさんは嫁いでからよく辛抱して来たんだ。人間、辛抱が大切。あなた方も是非辛抱して下さい。

こうしてあなた方に頼んで私は安心して死ねる。もういいよ。もう帰っていいよ。

だけど、もう一度、おばあさんの手を握って行っておくれ。

そして、おきんおばあさんは、こんな辞世の句を残して、世を去りました。

我死なば 煙と消えて空高く 
 月の浄土で子孫守らむ

高砂の宴で、あいさつに立った分家の彦兵衛おじ貴、呑むといつも一言多くなるのだが、この席でもまた、長広舌をぶった。
「新郎の五平も、これからは性根を入れ替え、家業に励んでくれることでございやしょう。
これで本家もご安泰、重畳、重畳」
赤い顔をした彦兵衛はペラペラと続けた。
「御新造みつの母おせきさんは、この本家から嫁に行ったわけで、いわば実家への嫁返し。目出度いことでございやす。いとこ同士は鴨の味とやら、五平もみつも、早う赤子を作らなきゃならねぇ。励むべし」
もう、いい加減にしろ、とみな思っていた。

写真は2018年5月、故郷にある高原の牧場で、私が撮ったものです。

21いとこ同士は鴨の味


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