見出し画像

あしらの俳句甲子園2024その9 俳句の妖精 後編


 理科ではH2Oと習う若水を詠む。

 中堅戦は、

 若水や鯛めしの焦げ匂い立つ(辞令は突然に)

 若水を綿に湿らせ唇に(蝦夷のきのこ)

 夏井いつき組長の「若水で寿げっ!」と脳内でお言葉を浴びつつ(空想ですよ)私の介護と鯛めしの句のディベートが始まります。
 鯛めし、お宅で炊かれるんでしょう。いいなぁ、まだ食べてないよ。松山来たのに。

 幸の実ちゃんの質問、
 「若水をなぜ綿に湿らせて唇にやっているのでしょうか」
 「水が喉を通らない老人の方に唇を濡らしてあげる介護仕事を詠んでおります」
 「ありがとうございます。助詞の効果によって視線の誘導が出来ていると思いますが、唇「に」ではなく、唇「へ」ではダメだったんでしょうか?より視線が唇に行くと思うのですが」凄いなー、幸の実ちゃんの指摘!
 きのこ氏のアシストが入ります。
 「唇にとすると綿が唇に触れているのですが、へとするとまだ唇に触れていません。若水が浸っている、介護を受けている方が若水を受け入れている事が「に」で確定しています」
 「この若水は井戸から汲んできたものでしょうか?」
 「井戸とは限りません。申し訳ないんですけど(はい、そこまで)」

 攻守入れ替わり、

 花河童さんの質問、
 「若水と焦げた匂いと、めでたさでは繋がっているとは思いますが、お米を研いだお水が若水なのでしょうか?教えてください」
 「炊き込みご飯の鯛めしを若水で炊いている、焦げというところからわかると思います。若水を使うことで特別な物として、尚且つ体に良い鯛めしを若水で炊いたと言う景です。焦げ匂い立つから美味しさが伝わっていると思います」
 めぐみの樹さんの反論も理論的で素晴らしいと感じました。
 「若水のおめでたさと美味しさが伝わってくるのはわかりました。焦げた段階で香りの情報が入ってくると思います。下五、五音使ってダメ押しした理由を教えて下さい」
 「鯛めしを炊いて、蓋を開けた瞬間匂いがふわーっと上がってくるんです。感動を覚えていて、それを匂い立つで表していると思います」

 ジャッジ、赤二本!

 夏井先生の講評です。
 「本当に対照的な句でしたが、どちらも生きる為口の中に。亡くなった方の唇にかと思いました。切迫した状況句にハッとしたのはお伝えします。明るくて美味しくて新年ここから寿ぎを大事にしたいと思って赤に上げました。おせちではなく鯛めしを正月に食べるのかと言うささやかな庶民的な違和感はありますが、その水の冷たさと鯛めしの芳しい香り率直に頂きました」

 大将戦になります。これで決勝戦へどちらが行くのかが決まります。


若水や手押しポンプの音硬し(辞令は突然に)

若水や母の喉(のみど)を動かせり(蝦夷のきのこ)


 思い返せば、四年前に松山で一緒にまる裏に来た時、花河童さんのお母様はまだご健在でしたが、介護が必要な為に介護施設へ預けて来てらっしゃっいました。
 時折、携帯にお母様から花河童さんへメッセージが届いてました。ふと飛び込んで来た文章は「I love you」だったのです。ただならぬ気配。施設から病院へ転送の連絡。幸い深刻な状態ではありませんでしたが、慌ただしく松山での時間が過ぎていきました。
 「旅行がなかなか自由に出来ない」そう、嘆く花河童さんに私は「その時間はずっとは続かないから」と慰めともなんとも言えない言葉をかけたのを覚えています。
 それから自宅で介護し、しっかりお母様を看取られて、私たちは自由な身となって再度松山を訪問したのでした。

 「新年らしい光があって美しい句だなと思いました。下五を音硬しとした効果を教えてください」
 「一生懸命にポンプを押している感じが現れているか思います。新年なので改まった気持ちいつも使わない手押しポンプだから硬く、そして心の緊張を大事な水を汲んでいると言うことを込めています」
 「それでは上五をやで切った効果を教えてください」
 「ここは「や」ではないといけません。手押しポンプで若水を汲みに行くぞーと言う実感が込められています」
 「若水がポンプから出ている景でしょうか?」
 「水が出たり止まったり、している景で間違いはありません」

 家族のチームワークが素晴らしくて感心します。
 攻守入れ代わり、蝦夷のきのこが質問を受ける。
 「母の喉を動かす、これも介護の句なのでしょうか?」
 答える花河童。
 「これは実景です。水で喉詰まりするなんてありえないと思ってました。でもあるんです」
 「看取られたと言う事ですが、どのように喉を動かしたのでしょうか?体験がないので教えて頂きたいです」
 「抱き起こして、喉がごくんごくんと動いていく。若水の力が母の喉を動かしていたんだなあ」
 花河童さんの涙を流しながらの言葉に会場が静かになったようでした。

 大将戦が終了しました。

 ジャッジは、白二本でなんとか勝ち上がりました。

 五十嵐秀彦先生からの講評です。
 「若水の手押しポンプの句は出来上がった句だなと思います。若水や母の喉動かせりは、蝦夷のきのこチームは老人介護系で押し通したような感じですが、若水の正月の力言うのは大事なんですが、若水がお母さんの喉を動かしたのだとすると良い句だった思います」

 幸の実ちゃんが対戦の感想述べてくれます。
 「若水が一番苦労した兼題でした。若水通していろんな景色が見えました。決勝戦頑張って下さい」
 花河童さんが感想述べます。
 「昨日は道後温泉で母の形見の時計無くしたのに出てきて、これ以上嬉しい事は無いと思っていました。それなのに、決勝まで行けるなんて、明日朝日が西から昇るかもしれません。(会場から笑い声)幸の実ちゃんの若々しい句をたくさん見せて頂きました。ありがとうございます」
 幸の実ちゃんがトランプを引いてトーナメントに出られると決まった瞬間の喜びようは、冬の妖精と言われている鳥のシマエナガが舞い飛んでいるかに見えました。日頃、昭和感漂う俳句に埋もれている私たちには眩しく思えます。
 来年は高校受験であし俳はお休みするとの事。
 どんな凄い俳人になるのかしらと期待で胸が膨らむ試合でした。

トーナメントを勝ち上がる為にトランプを引く順番を決めています

この記事が参加している募集

私の遠征話

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?