『空飛ぶストレート』
「しょぼいストレートになったなあ」
「あ? お前もだろ」
私からすれば、どちらも同じ山なりのボールに見えて、笑ってしまう。
大学3年で肩を壊したエースの純也。その代わりに投げ続けた将太も社会人になって肩を壊した。二人は引退し、私達は30歳になった。
久々に再会するからと来てみたら、結局やるのはキャッチボールだった。
私は芝生に寝転んで、空飛ぶストレート……いや、山なりのボールが左右にゆくのを眺める。
もし、私が微睡んでいる間に、左右にいる純也と将太が入れ替わったら。目の前をゆくボールの軌跡だけで見分けがつくだろうか。
あの頃、二人の自慢の剛速球を私は知っていて、見分けがついて、どちらも好きで。
いや、本当の所はどうなんだろう。
実は見分けなんてついてなくて、私はどちらかを選んでなんていなかったのかも──
「おーい、里穂、帰るぞー」
私は何処も、何も壊してないはずだけど、もう三人でキャッチボールはしない。
(おしまい)
僕の書いた文章を少しでも追っていただけたのなら、僕は嬉しいです。