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2019年とグリーグの小屋

大晦日の今日は、例年通りに蕎麦を食べてから銭湯へ。帰り道でこれまた例年通りに本屋で葛西薫氏がデザインしたAndo Galleryのカレンダーを買い、花屋で千両を一枝だけ買って帰宅。年の瀬の暮れなずむ時間を静かに過ごしている。

今年は5月から新しいアルバムを作り始め、10月に40歳になった。11月からは1ヶ月をUKのケンブリッジで過ごし、12月の半分以上をノルウェー、スウェーデン、オランダ、フランス、ロンドンで過ごしていた。

暑い時期には暑い土地に、寒い時期に寒い土地に行くという信条をもっている。なので、11月の終わりにケンブリッジを離れる際に、まずは北欧に行こうと決めた。ちなみにEU離脱後は分からないが、2019年の時点ではUKからノルウェーには片道約8,000円ほどで行けることもあり、イギリス人からは旅行先として大変人気があるそうだ。

ノルウェーで初めに訪れたのは大西洋側に位置するベルゲンという街であった。ベルゲンはディズニーの映画『アナと雪の女王』のモデルになった街として有名であるらしいが、自分にとっては『ペール・ギュント』などで知られる作曲家グリーグが生涯を過ごした場所として記憶に残っていた。

グリーグの家「トロルハウゲン」はベルゲン空港からトラムで20分ほど行き、そこからさらに25分ほど歩いた奥深い入り江にある。ノルウェーは気候の変化が激しい国ではあるが、幸いにして私が訪れた日は、ちょうど今日の東京のような晴れ空のもと、キリッと引き締まった冬の空気に満ちた美しい日であった。

トロルハウゲンの敷地内に併設されたグリーグ博物館にはグリーグの遺品が展示されており、展示室にはグリーグのこんな言葉が記されていた。

I have no pretensions to being in the same class as Bach, Mozart and Beethoven. Their works are eternal, while I have written for my own time and my own generation.

同じくトロルハウゲンの敷地内の急な坂を下ったところにグリーグが作曲をする際に過ごした小屋がある。

小屋の中はグリーグが使っていた当時のままの姿で残されていた。小さなアップライトピアノと譜面を書くための机、休憩用かはたまた思索にふけるためのものかは分からないが、グリーグの体のサイズに合わせた小さなソファがひっそり置かれており、入り江に面した窓からは夕暮れの柔らかい光が差し込んでいた。

トロルハウゲンで過ごした時間の中で、自分の作品について考えていた。職業音楽家、すなわち音楽で生計を立てているわけではない私にとって、「なぜ作るのか」という問いはいつも、とても重要だ。曲を作るとき、録音するとき、こうして文章を書くとき、常に「なぜ作るのか」と自分に問うている。

グリーグの言葉と、残された言葉と、冬の澄んだ空気の中でふと分かったことがある。それは私の次の作品は、至極当たり前ではあるが、日本人による日本的な作品になるだろいうことだ。もちろん、「日本的である」ということは盲目的な愛国心を振りかざすことではなく、自覚的な精神性からくる発露の結果としてそうなるであろう、という意味である。

「日本人による、日本的な、日本人のための」
ではなく
「日本人による、日本的な、同じ時代を生きる世界中のあなたのための」

私の音楽を聴いて、日本を感じて欲しい。海外に住んでいる方は日本に来てみたいと、日本人の方は日本も捨てたもんじゃないと感じていただける、そんな作品になればと願いながら制作を続けている。そして何より、音楽でしかない音楽を作りたい、そうあるべきだと。

最後に、次の作品のなかからごく一部を抜粋したものを。ミックス以前の録って出し状態、日本酒で言えば「あらばしり」ですが、聴いていただければ幸いです。

皆さま、良いお年を。

Karika (Rough Mix)
Vocal : Yamasaki Madoki
Piano : Kanazu Tomoyuki



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