004 ファミレス
ファミレスで、レジ横のおもちゃコーナーに近い席に座ったときのこと。かわいらしい会話が聞こえてきた。
まず、お父さんと一緒の女の子。
「今日じゃなくてもいいんだけど」
さりげなく切り出し、「これがほしいな」と、おそらくおもちゃを指して言う。
それから、お母さん、お姉ちゃんと来た男の子。
「これとこれがほしいんだけど、お姉ちゃんはどれがいい?」
直接、母親にねだらず、姉と話しているふうを装っている。
どちらの子も、小学校低学年くらい。買って買ってと騒ぐと、手に入らないどころか、怒られるのを十分に学習しているよう。
なんて言えば買ってもらえるか、一生懸命、考えたんだろうな、と思うと、にこにこしてしまう。
そんな努力むなしく、あっさり「今日は買わないよ」と言われ、その子たちは大人しく店を出て行った。
ファミレスのおもちゃコーナーには、思い出がある。
二十年ちょっと前、小学校一年だったか。当時、週末に家族でよく行ったショッピングモール近くのファミレスで、目覚まし時計のミニチュアを見つけた。
子どもの手に乗せても小さく、本体はピンク、二つのベルと足はゴールドだった。もちろん、ボタン電池式。
そのときは買わなかったが、あとから欲しくなってきた。一週間、その時計が気になって、授業はろくに聞いてなかった気がする。
ようやく、待ちに待った週末が来た。
ショッピングモールは行ったが、ファミレスには連れて行ってもらえず、がっかりした。
――次に行ったときは、もうないかも。どうしても、ほしい。
それで、父に頼み込んで、ファミレスに時計だけ買いに行った。姉もついて来たような。
もうないかも、と思うと、算数のわからない問題を当てられないかと、心配するときぐらいドキドキした。
だから、おもちゃコーナーにまだ時計があったときは興奮した。値段は、千円。子どもには大金だが、思い切って買った。
「おもちゃだけ買う人なんていないよね」と、気恥ずかしい父は店員に無意味に話しかけていて、わたしも子どもなりにバツが悪かった。でも、やっと手に入れて嬉しかったのを覚えている。
あの子たちは、何を欲しがっていたのかな。店を出る前にのぞいてみた。
魚釣りゲーム、自販機のおもちゃ、キラキラの指輪、ちいさなぬいぐるみ。
わたしが子どものころと変わらない顔ぶれだったが、欲しいものがどれなのか、全くわからなかった。
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