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006 トンビにご用心

 今日の金沢は、とても晴れていた。
 最近は家にこもりがちだったので、香林坊の方まで出かけることにした。行きたかった喫茶店があったのだ。

 ところが、自転車を漕いで店に到着すると、本日、定休日。Googleで確認したら、営業中だったんだけどな、、、
 金沢は、こういうのがけっこう多い。
 古着屋のお兄さんが教えてくれたが、竪町のあたりは水曜定休の店が多いそう。そういう決まりがあるらしい。

 喫茶店は残念だったけど、近くのパン屋さんもおいしそうだった。昔ながらのパンのあまい、いい匂い。お昼にクリームパンとアンパンを買った。
 家で食べてもいいけど、竪町の方へ行く途中に大きな公園がある。
 広い芝生があって、お年寄りがゲートボールをしたり、子どもが凧揚げしたりしている。あそこにしよう。

 公園には、すぐ着いた。
 暑いのにゲートボールをしている元気なおじいちゃん、おばあちゃん達。遠くでトンビの鳴き声。
 のどかだなあ、とベンチに腰を下ろして、クリームパンから食べ始めた。バニラビーンズ入りの、とろっとしたクリーム。うまい。あっという間に、完食。
 お茶、持ってくればよかった、とクリームパンの余韻に浸っていたら、左手の薬指にバシンと衝撃が走った。持っていたはずのパンの袋がない。
 そして、飛び去るトンビの後ろ姿。足にはパンの袋がしっかり握られている。

 あっ! やられた!! 

「おねえさん、大丈夫?」 
 呆然としていると、ゲートボールをしていた男性が声をかけてくれた。
「急降下してきたから、何かなと思ったら、狙ってたんだね」と、アンパンが入った袋を見ながら言う。
 トンビはわたしがぼんやりしているのを、ちゃんと見ていたらしい。

 はたと気付いた。こんなに気持ちのいい公園で、昼時なのに、弁当を食べる人がいない。近くで働く人や子どもを連れたお母さんがいそうなのに。
 もしかして、トンビに狙われるから、公園でものを食べないのは、ここの常識? と思うと、いたたまれなくなって「大丈夫です、すみません」と男性に答え、逃げるように公園を後にした。

 このまちも慣れてきたなあ、と思っていたけど、まだまだと思い知った一日だった。


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