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「効率」とか「生産性」とか、もう、よくない?ーこれからの「働く」を考える④

私たちはフリーランス数十人の組織っぽいことになってて、仕事として常に複数のプロジェクトをまわしているので、気を抜くとつい「効率」とか「生産性」とかを考えてしまっている。

【「生産性を上げる」は善/「無駄」は悪。】

でもね、やってみてて、最近「……で?」と思ったのです。
正直、仕事やっててぜんぜん楽しくない。
何やってんだ私(たち)?
 明日、死ぬかもしれないのに?


▶スペインの諺「明日できることを、今日するな」

スペイン在住フリーライターだった頃、日本のメディアにスペインの紹介記事を書くことが多かった。そのときよく使ったエピソードが、この「明日できることを、今日するな」という諺(※)。はじめて知ったとき、衝撃だった。

なぜなら、1970年代生まれの私は、高校生の時に英語必修フレーズとして、この諺とは真逆の”Never put off till tomorrow what you can do today. (=今日できることを明日に延ばすな)”を学び、そのまま自分に言い聞かせながら毎日を過ごしてきたから。

そう、あの頃、私たちは忙しかった。より良い大学に入るため、受験勉強に明け暮れた。私は高校時代は元旦しか休みがなかった。先生の「高校3年間が地獄でも、大学4年間が天国なら、差し引き1年天国だ」という言葉に、「たしかに。」と深く納得した記憶がある。

でも私は、大きなことを見落としていたのだ……と、いま振り返ると思う。それは、「生き物の時間は”差し引き”できない」という、当たり前すぎる事実。

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(スペイン時代の、近所のお祭り)


▶通勤路を変えてみた。

流行にわりと弱い私は、コロナ禍にクロスバイクを買い、JRで1駅分のオフィスまでチャリで通うことにした。

家からオフィスまでは国道沿いにチャリチャリ行けば、20分くらいで着く。ただ、阪神高速の出入り口を横切ったり、サイレンと回転灯で殺気立つ駐車場出入口を次々と通らなければならないので、注意力散漫でペーパードライバーな私は、道中ずっと気を張り詰めている。

そうして駐輪場にたどり着くときには、汗だくのヘルメットを外しながら「ああ、なんとか今日も生きて着いた! ふー!」と思う。帰路も同じ。緊張の連続。


ある日、チームメンバーでウルトラマラソン常連の加藤さんが、「湯川さんの家から海沿いに出れば、ほとんどずっと公園の中を通って来れますよー」と教えてくれた。ジョギングルートらしい。

試しにチャリチャリ行ってみると、海があり、緑があり、阪神淡路大震災後に建築家がつくったモダンな建物群があり、タグボートがゆっくり通過する橋があり、現代アートのオブジェがあり。ジョギングするひとや犬の散歩をするひとがいっぱいいて、釣りをするひともいる。ジャボン、海でボラがキラリと跳ねた! あいや、太陽が眩しい。

信号を渡り、別の公園に入る。車の音もしない静かな緑、お隣のゴルフの打ちっぱなしの音がカコーンと、まるでししおどしのように、広い空間に溶けていく。ペダルを軽く踏んでカーブをすぃーと曲がると、そこに、どーん! と空が現れた。おお、青い。なんて青いんだ。ぽかーんと空を見上げたまま、ふと鼻歌を歌っていたことに気づいて、アハ、と笑った。おいおい、鼻歌なんて、いつ以来?

家からオフィスまで、本当に、大きな信号は1つしかなかった。

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(これはバルセロナだけど、たとえばこんなかんじ)


▶ 「少しでも早く着くこと」で、いったい私は何をしようとしていたのだろう?

ふたつのルートで、移動にかかる時間の違いは、10分弱。これまでは1分でも早くオフィスに着こうと思っていた。移動の時間は単に無駄だから。なので、できるだけ重いギア入れて漕いでいた。赤信号で待つのは苛々するので、青の点滅は必ず攻める。ずっと必死の形相だったと思う。

でも通勤を遊歩道に変えることで、移動の時間そのものが楽しみになった。約30分、海を眺めたり空あおーいと思ったり鼻歌歌ったりしながら軽いギアでのんびり自転車を漕いでいる時間は、ぜんぶが楽しかった。で、あれ? と思ったのだ。いままで「少しでも早く着くこと」で、いったい私は何をしようとしていたのだろう?


「効率を上げる」の究極は、「プロセスをゼロに近づける」だろう。たとえばタバコ屋さんじゃなく自動販売機とか、ほら、イチャイチャせずにいきなりアレとかさ。

でも「効率」とか「生産性」を上げるためにガサッ!となくしてしまったプロセスに、実は、喜びがなかったか? というか、喜びってそもそもプロセスにあったのではないか?

生き物の時間は差し引きできない。いま流れているこの時間こそが、唯一の「喜び」の泉源。生きることは結果を出すことじゃなくて、時間と共にあるプロセスそのもの。なので、プロセスが喜びになるのがいちばん。


▶仕事の時間を、ぜんぶ楽しく。

私たちは、いっぱい仕事をしている。神戸市の場合、年間の日照時間は平均2016.5時間とからしい。一方で、フルタイムの一般労働者労働時間は年間で平均2018時間というデータがあった。ほぼ同じやん。めちゃくちゃ雑に考えると、「日本人は、1年中、太陽が現れている時間は、ずっと仕事している」になる。(土日祝日考えると、実際は日没後もだいぶ働いてる)

こんなに長い時間、仕事をしているんだもの。
仕事で我慢して、その他で取り返そうとしても、限界あるよやっぱり。「仕事の時間が楽しい」って、めちゃくちゃ大事なんやと思う。人間は、時間を生きる、生き物だから。


難しい顔して気を張ってシャコシャコ自転車漕いで短縮した10分と、フフン♪と鼻歌うたいながらご機嫌な30分とで、アウトカム(顧客が受け取る価値)は、そんな変わるんやろか? 「ああ! この10分遅れたせいで、支払いが遅れて彼の命が危ない!」ってメロス並みに命がけの仕事をしとるか、毎日、私たち?(「10分はよ出ろよ」でもいいしね)

仕事って、毎日長い時間することだから。「効率」とか「生産性」とかは、「人間性」の後でよくない?

「仕事」というプロセスのすべてを楽しく幸せにする、それは社会人にとって「人生」を楽しく幸せにすること、そのものやんな。うん、生殖もいいけどさ、ドキドキワクワクシクシクする恋も、人間的でいいじゃん。


■ この次のトークイベント

女性起業家部会1

昨今、とかくチヤホヤされがちな「学生起業家」「社会起業家」そして「女性起業家」。その実態はどうなのだろう? それぞれの当事者は、どんなことを経験し、どんなことを考え、どんなことをやろうとしているのか。

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【日時】2021年12月18日(土)13:00-15:00
【開催方法】オンライン(Zoom)
【参加費】無料
【参加方法】12月17日(金)までに、こちらの応募フォームからお申し込みください。イベント2日前をめどに、Zoom URLをお送りいたします。
https://forms.gle/Uw4e3E5LmSg7S6qy8

※なお、たまにご質問をいただきますが、もちろん男性のご参加も大歓迎です!

【詳細・お問い合わせ】関西ベンチャー学会女性起業家研究部会 (http://www.kansai-venture.org/?p=4064)

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