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「教える」本質について、ビジャレアル指導者&Jリーグ理事の佐伯夕利子さんにきくぞ!/自由人博覧会

初めて会った2005年。佐伯夕利子さんは、スペインでは有名なサッカー監督だった。なんせ2年前に、スペインサッカーナショナルリーグ史上初の女性監督となった人なのだから。そしてマドリードで、レアル・マドリーと人気を二分するアトレティコ・マドリーの女子チーム監督をしていた。なのに軽薄な日本のメディアは、彼女のことを「過去の人」だと思っていた。

あれから15年。佐伯夕利子は、ヨーロッパの名だたるクラブのなかでも「選手育成」で突出した実績とメソッドをもつクラブ・ビジャレアルの中核を担う指導者として、そしてJリーグ理事として、日本サッカー界に戻ってきた(わけでもないのかもしれない)。

ちょうどJリーグ1部が再開する7月4日、スペインはビジャレアルの佐伯さんと生中継で、トークイベントを行います! 「教えない」ビジャレアルのメソッド、私が一目惚れした彼女の生き様、ぜひ楽しんでほしい―。というわけで、彼女の人生を、私の目線でまとめました。まあ、すごいよ。


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▶【スペインサッカー史上初の女性監督】

佐伯夕利子、の名前が日本で一躍有名になったのは、2003年。スペインサッカーのナショナルリーグ、100余年の歴史を誇るサッカー大国の国技において、「初めての女性監督」という偉業を、なんと日本人”なのに”達成してしまった時。当時彼女は、30歳になったばかりという若さだった。

さまざまなスポーツ雑誌、そしてアイドルが司会をするバラエティー番組までが、日本から取材に押し寄せた。その光景だけで、スペイン現地メディアの記事となったくらい。ただしその波は、「解任」と同時に一気に消え去る。


私が現地で彼女に会った2005年は、こうして彼女が日本のメディアから忘れ去られていた時期だった。だけどすでに彼女はアトレティコ・マドリード女子チームの監督という素晴らしい仕事をしていたし、さらに強豪バレンシアCFトップチームでの育成へと、指導者としての道をまっすぐ進んでいた。

スペインのみならずヨーロッパでは、”ユリ”と言えばラジオや新聞でもよく目にするサッカー界の有名人。でも、日本では「過去の人」扱い。「ひどいね」と言うと、”ユリ”はそのシンボルの力強い瞳で、瞬きもせず、「いや、こんなもんでしょ」と笑った。その瞬間、「この人は、いったいどれだけの修羅場をくぐってきたのだろう」と思った。同じ歳なのに。


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▶「中国人はチャーハンでもつくっとけ!」

1973年、父親の勤務先だったテヘランに生まれる。小学生時代には台湾にも住んでいた。やがて日本で、「キャプテン翼」が流行る前に、なぜかひとりサッカーを始める。誰も遊んでくれないから、校庭の壁に向かって、毎日、放課後ひとりでボールを蹴り続けた。

高校時代、父親の転勤に伴ってスペインへ。そこで、女子サッカーに出会う。プレイヤーとして活動しながら、19歳から指導者としての勉強も始めた。順調に合格を重ね、またレアル・マドリードのサッカースクールの指導などでも経験を積みながら、女性として初めて、日本でいうS級ライセンス取得に挑むことになる。


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が、スペインは、実は圧倒的なマッチョ(男社会)である。しかも、国技であるサッカーだ。たとえば日本で、ヨーロッパの女性が、相撲の親方になろうとするのと近いかもしれない。あらゆる嫌がらせが、ユリに襲い掛かる。(なんと)地元マドリードでの試験の中止、そして夜中に何度も鳴り響く電話。受話器を取ると、「中国人はチャーハンでもつくっとけ!」と怒鳴られて、一方的に切られる。

それでもユリは、チャレンジをやめない。日韓ワールドカップのときにはスペイン代表チームリエゾンとして帯同したりもしながら、やがてついに、スペインサッカー史上初の女性監督となった。その嵐が去った後、私は、日本の雑誌から彼女へのインタビュー記事の依頼を受けた。彼女と会って本当に衝撃を受けて、私はすぐに「あなたの本を書かせてください」と頼み込んだ。そんなこと、他に一度もない。(ちなみにそれが『情熱とサッカーボールを抱きしめて』です)


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(表紙の写真も、私が撮ったんだ!)


▶「これまでの指導は、いったい何だったのだ?」

やがてユリは、ビジャレアルという、”小さなビッグクラブ”に移籍した。ビジャレアルは人口5万人。スポンサーは地元のタイルメーカー。もちろん、レアル・マドリードやF.C.バルセロナなどと予算規模では天文学的な開きがある小さなクラブである。だが、ビジャレアルはほとんどスペイン1部リーグの好位を占め、欧州カップ戦の常連となっている。

資金力が乏しいクラブが1部リーグで存続しつづけるためには、選手を育成しなければならない。レアル・マドリーやバルサが「買い」チームなら、ビジャレアルは「売り」チーム。選手が認められて移籍するときの収益で、次世代を育成する。


なんせ、人口5万の町で、収容人員2万5千のスタジアムが常に満員となる、地域密着型のクラブ。「当然のことながら」女子チームがあり、「やってみたいこどもは誰でもユニフォームを着て公式戦に出られる」手厚いジュニアやキッズのチームがあり、また知的障害者のチームもある。このまちのすべてのひとにフットボールを提供する。それが、ビジャレアルというクラブなのだ。

ユリがビジャレアルに来て6年目、クラブは本格的な育成改革に取り組む。それは、彼女が「これまでの指導は、いったい何だったんだろう?」と慄然とするような内容だった。このビジャレアルの「教えない」育成メソッドは、ヨーロッパをはじめサッカー界に旋風を巻き起こしている。


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▶【いちばん成長しないのは、監督】

現在、佐伯夕利子さんは、その知見をもって、Jリーグの理事にも就任している。日本の指導者が、選手のことを「あいつじゃダメだよ」「まだまだ心配ですけど」と言う姿に、以前の自分も重ねて疑問を感じる。「それは、その指導者の解釈であって、言われている選手の価値ではないですよね? 『いちばん成長しないのは、監督』って言われたりするんですよ」

そんなゆりちゃんに、J1リーグ再開となる7月4日、奇跡の育成メソッドの現場ビジャレアルの地から、リアルタイムでイベントに登壇していただきます! 質疑応答もいっぱい受け付けますよー!


※イベント詳細※

<日時>(オンライン開催)
2020年7月4日(土) 15:00~17:00
(※おやつタイムにつき、お酒やお茶などを楽しみながらやりましょう)

<参加費>1,650円(税込み)

<お申し込み> https://coubic.com/lgaku/944955


■ゲスト:佐伯夕利子(さえき・ゆりこ)
(サッカー監督、スペインリーグ「ビジャレアルCF」所属、Jリーグ理事)

1973年、テヘランに生まれる。2003年、スペインサッカー界では女性として初めて男子ナショナルリーグ「プエルタ・ボニータ」(スペイン3部リーグ/日本でJFLに相当)の監督に就任。その傍ら、現地サッカー専門誌等にコラム寄稿、また地元テレビ局の試合実況解説も務める。

2004年から2年間は「アトレティコ・マドリッド」女子チーム監督やスカウティングスタッフ・普及育成副部長等を務め、リーグ優勝に貢献。2007年、「バレンシアCF」と契約、チーム育成の中枢を担う強化執行部のセクレタリーとして活躍。スペイン国王杯優勝にも大きく貢献。その実績を高く評価され、『ニューズウィーク日本版』で『世界が認めた日本人女性100人』にノミネートされる。

2008年「ビジャレアルCF」と契約、育成部に所属。トップチーム以下の全てのカテゴリーを育成強化し、将来のスペイン代表を育てる重要なポストを務めた後、2009年8月にはユースAチームのコーチングスタッフアシスタントとして、現場に復帰。2010年からはビジャレアルレディースチームの監督に就任。スペインナショナルリーグで活躍するチームをけん引している。
現在、Jリーグ理事もつとめる。


■ホスト:湯川カナ(ゆかわ・かな)(一般社団法人リベルタ学舎代表、なりわいカンパニー株式会社代表、兵庫県広報官)

早稲田大学在学中、孫泰蔵氏(現シリアルアントレプレナー)の学生起業に参加した縁で、Yahoo! JAPAN創設メンバーとなる。数億円分のストックオプション権を返上し、言葉もわからないスペインへ移住。10年間、「ほぼ日刊イトイ新聞」をはじめフリーライターとして活動する。帰国後は、縁もゆかりもない神戸で、女性や若者の社会参画を推進する学びの場「リベルタ学舎」を設立。地元企業や行政との連携も手がける。2020年5月、地域の事業づくりコミュニティ「なりわいカンパニー」設立。2018年4月より兵庫県広報官。「自分の幸せを実現しながら、みんなの幸せも実現する」新しい個と公共の在り方を考え、実践し続ける。著書4冊。


■お問合せ先:一般社団法人リベルタ学舎
info@lgaku.com
078-599-9381


▶湯川カナ、「自由人博覧会」シリーズを語る。

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スペイン語の「自由(libertad)」は、「解放された状態」という意味。素敵なひとは、何かから解放されて、すごく空高く翔けているように見える。いったい、何から解放されているのだろう?すごく話を聞いてみたい。だって私が、もっと自由に生きたいから。

それぞれ、湯川が圧倒的に憧れる博物館級(!?)のひとたちにお話を伺う。せっかくだから、その「生」そのものに、たくさんのひとに接してもらう。そして「自由に生きる」技術を教えていただく。それが、リベルタ学舎の「自由人博覧会」です。

<全文>湯川カナ、自由人博覧会を語る。
http://lgaku.com/index.php/jiyujin/20200614/


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