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プロレス目線で見る朝ドラ「おかえりモネ」

今期の朝ドラ見てます?
「おかえりモネ」いよいよラストが近づいて来ましたよ。

まだ見てない方は是非見て欲しいなー。朝ドラ史上まれにみる繊細なドラマです。

天気予報士を目指す女性が主人公なんだけど、そこに「震災」「地方と都会」「海の暮らし、山の暮らし」いろんなテーマが複雑に絡んでくる物語。

そしてたぶん朝ドラ史上まれに見る、自己主張の弱い主人公。

だいたい朝ドラの主人公って、大きな夢を持ち、苦難に立ち向かい、それを乗り越え、栄光を手にする、っていうパターンが多い気がしませんか?

それを、見ているこちら側が応援し、「よし僕も、私も、アタイも、オイラも、負けねーぞ、今日も頑張るぞ、行って来まーす!」っていうのが通常。

ところが今期の「おかえりモネ」は違います。

主人公のモネは宮城県気仙沼にある「亀島」という小さな島の出身。その島は2011年3月11日の東北地震で大きな打撃を受けます。ところが、たまたま地震の瞬間は島の外にいたため被害にあわなかった主人公。島に戻ったあとも同級生たちとの間に見えない壁を感じてしまいます。

面と向かって嫌味を言われたり、いじわるされたりする訳でもなく、表面上は今まで通り仲良くしているのですが、ふとした瞬間に疎外感を感じる主人公。それはモネが勝手に感じている被害妄想なのかも知れません。

その経験から「誰かの役にたちたい」という思いが人一倍強く、実際に気象予報士を目指し始めたのもそれが理由。

「誰かのために」という思いからか「自分がこうしたい」よりも「人が喜ぶ顔が見たい」が優先するモネ。それゆえの自己主張の弱さなのかも知れません。

主人公なのにセリフも少なく、キャラクターの強い他の登場人物の話を聞くシーンが多い。こんなにセリフの少ない主人公も、朝ドラ史上初じゃないかな?

だから主人公を演じる清原果耶(きよはらかや)さんに対し「ボーっとしてる」とか「ぽかーんとしてる」とかいう意見を耳にします。

おいおいおいおい!ちょっと待て!お前らどこ見てんだ!清原果耶の演技力なめんな!相手のセリフ、動き、感情に対するリアクション、完璧じゃねーか!

言葉に出さなくとも、セリフがなくとも、その表情ですべてを物語る。相手の技をすべて受けきる「受け身」の上手さ。プロレスラーで言うなら、小橋建太の水平チョップを胸を突き出して受け止める元プロレスリング・ノア代表、三沢光晴級の受け身の上手さだよ!天才リアクション女優だよ!もし熱湯風呂に入ったら圧倒的なリアクション芸を見せつけるよ!ダチョウ倶楽部の後継者だよ!

そしてもう一人の天才女優。モネの妹、みーちゃんこと永浦未知役の蒔田彩珠(まきたあじゅ)さん。

映画「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」や、映画「朝が来る」など、内面に鬱屈したものを抱えた人物を演じることの多い彼女。

「おかえりモネ」でも姉であるモネに対する複雑な感情を見事に演じています。震災の恐怖を味わった自分。その時いなかった姉。「お姉ちゃんには分かんないよ。津波見てないもの」と溜まった感情をぶつけてしまいます。ナイフみたいに尖っては触るものみな傷つけます。

そんなギザギザハートな妹、蒔田さん演じる「みーちゃん」。彼女が憧れる男性が漁師の「りょーちん」。モネの幼馴染である彼は、モネに思いを寄せています。自分の好きな人が、おねーちゃんの事が好き。さらに嫉妬心も加わり、姉モネへの気持ちは感情の大渋滞。心のスクランブル交差点。

その憧れの男性「りょーちん」が行方不明になる、というシーンが印象的でした。

実家からの電話で失踪の事実を知る二人。「誰の電話にも出ないのよ」という実家の母からの言葉に、あわてて電話をかける妹。しかし電話は繋がらない。そして姉に言います。

「早く!お姉ちゃんも電話してよ!」

一瞬の間。自分の携帯電話から「りょーちん」に電話をかけるモネ。それを見つめる妹、未知。

この時の表情が圧倒的でした。彼のことが心配だから電話に出てほしい。けど私からの電話には出なかったのに姉の電話に出たとしたら、彼と姉との絆の強さに打ちのめされてしまう。電話に出てほしい。でも出てほしくない。けど出てほしい。複雑に絡み合う感情を表情だけで見事に表現していました。

結局電話に出た、りょーちん。「なんで?なんでお姉ちゃんなの?」と鬱積した気持ちを姉にぶつける妹。上手い。上手すぎる。

ちょっと心配なのは、女優蒔田彩珠さんの演技が上手すぎて、彼女に対していらだちや怒りを感じる視聴者が増えているということです。

「何あの子!自分勝手すぎるでしょ!妹役の子、腹立つー!」

いやいやいや!演技だよー!演じてるんだよー!

ドラマを超え、現実の世界にいる人物のように演じ切る女優、蒔田彩珠。まるで全日本女子プロレス全盛期に活躍した悪役レスラー、ダンプ松本のようだ。

ダンプ松本も悪役レスラーの枠を超え、本当に視聴者から憎まれ、家に石を投げられたり、実家の母から「あなたが娘だとバレたら大変だから、帰って来ないで!」と言われたりしたそうです。

天才女優、蒔田彩珠(まきたあじゅ)。彼女は悪役レスラーだ!ダンプ松本だ!いやダンプ松本の遺伝子を受け継ぐ、アジャコングだ!蒔田アジュコングだ!

清原果耶VS蒔田彩珠。天才レスラー同士の対決。わだかまりを抱えた姉妹の直接対決が今週から始まりそうです。

おかえりモネ、最終章。おぼんこぼん師匠にも仲直りしてもらいたいけど、この姉妹にも仲直りしてほしい!

今日も戦いのゴングが鳴らされる!


金谷ヒデユキ

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