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役病8 ワクチンを創るのは難しい

 免疫反応を人工的に誘導するのがワクチンですが、ヒトの免疫システムについてはまだまだ分かっていないことが多く、かなり複雑で高等な機能であることは間違いありません。その高等機能を人工的に働かせるのですから、ワクチンの開発については慎重であるべきです。ワクチンを予防薬程度に考えている方が多いようですが、治療薬を創るよりもワクチンを創るほうが遥かに難しいです。

  免疫システムよりもさらに今回のウィルスについては分かっていないことが多く、数学の方程式を解くように理路整然と演繹的にワクチンを開発することは叶わず、本来は泥臭く長い時間をかけて試行錯誤を繰り返すしかないのではないでしょうか。

  また、医学全般の研究を難しくさせている要因として、ヒトの個体差が挙げられます。物理や化学の実験結果は実験室内での結果がそのまま外の世界でも有効ですが、医学の場合は必ずしもそうとは限りません。それは実験対象であるヒトが均一ではないからです。同じヒトでも、ある時には、免疫機能がよく働き、またある時には、あまり働かないといったことは十分あり得ます。

  病気と書いて、病は気から、とよく言われるように、純粋に肉体物理的現象ではなく、多分に心理的影響を受けています。よく知られているものとして、プラシーボ(偽薬)効果があります。効き目の無い偽薬を、効果がある薬だと偽って投与しても、患者に対する心理的暗示によって実際に病気が治ることがあるので、臨床治験においては、実際の治験薬を投与するグループと偽薬を投与するグループを常に比較しています。

  ワクチンではなく、病原体である細菌やウィルスが人体に付着すると免疫機構がどのように働くかというと、まず粘膜で防御機能が働き、それでも防ぎ切れなかった場合は体内に侵入し、人体に備わる幾つもの免疫システムが段階的に働いて格闘します。そして、それらの一連の長い過程で、細菌やウィルスの情報を収集し、格闘がこじれればこじれるほど強い免疫反応が起こり、また強い免疫記憶が形成されます。

  それ故、自然感染によって最も強い免疫が得られると考えられます。

  今回のmRNAワクチンについて、イスラエルで250万人のデータベースを使用して解析した結果、2021年の1月から2月にかけての間に今回のウィルスに自然感染して治癒した人(A)と未感染でmRNAワクチンの二回接種を終えた人(B)を比較すると、2021年6月1日から8月14日の間の調査では、BはAに比べてデルタ株に対しては、感染率が13倍高く、発症率が27倍高く、入院率が8倍高かったことが分かっています。

  このことから、mRNAワクチンによって獲得される免疫は、あまりにも脆弱だということが分かります。

  ウィルスの情報のほんの一部でしかないスパイク部位のRNAを体内に注入することによって獲得される免疫は、本来のウィルスとの格闘の過程が大幅に省かれているので、情報不足および免疫システムがフル稼働していないために、どうしても脆弱なものしか出来上がらないのではないでしょうか。

  富山大学の研究によると、mRNAワクチンを2回接種すると自然感染に比べて60倍もの量の抗体が産生されます。そして、研究機関によってデータのバラツキがありますが、2回接種から6か月後には、10~20%ほど抗体が残っているようなので、自然感染と比べても未だ6~12倍の量の抗体が残っていることになります。

 つまり、クオリティが低いので大量に作ることが可能ということなのではないでしょうか。また免疫記憶も強く形成されないので、一度作られた抗体が減少してしまうと、それまでのようです。  

  ウィルスの情報の一部しか体内に注入されないmRNAワクチンやDNAワクチンは当初から免疫の有効期間が短いのではないかと危惧されていましたが、その通りだったわけです。

  免疫の有効性および免疫記憶の長期保持ということであれば、生ワクチンが最も優れています。ウィルスを何世代も培養していくと、限りなく弱毒化した株が生まれてきます。これを体内に注入すると、自然感染に最も近い形で免疫反応が誘導されます。

  ウィルスを殺して不活化したものを体内に注入する不活化ワクチンは、RNAワクチンやDNAワクチンよりも免疫記憶の保持期間は長いかもしれませんが、生ワクチンほどには期待できないようです。これらに対して、標的となるウィルスの情報の一部を運び屋となる別のウィルスに組み込んで体内に注入するウィルスベクターワクチンは、釣りで用いるルアーや毛鉤のような疑似餌と同じで、勘違いして免疫システムが生ワクチンと同じくらいに働いてくれるようです。そして、組み込む情報が多ければ多いほど生ワクチンに近づいて行きます。

  アストラゼネカ社のウィルスベクターワクチンは血栓が出来やすいといって評判が悪いようですが、ワクチンとしては正攻法で創られています。おそらく組み込まれている情報が少ないので有効性が低く、変異株にも対応できないのではないでしょうか。

  ワクチンについては、有効性だけでなく、ADEの問題もクリアーする必要があります。ADEとは、マクロファージなどの免疫細胞の中でウィルスが増殖して、却って感染を増強悪化させる現象ですが、詳しい機序は分かっていません。

  テング熱を引き起こすウィルスは4種類ありますが、そのうちの一つに感染して出来た抗体は、他の三つに対してADEを引き起こします。要はウィルスのタイプが近いほどADEが起こる確率が高まります。

  今回のウィルスに近いSARSウィルスでADEは確認されており、また、今回のウィルスは変異しやすいので、ADEの危険性については、当初から強い懸念が示されていました。

  古いタイプのウィルス株に対して成立した免疫が、新しいタイプのウィルス株に対しては感染を増強させるように働いてしまうと厄介です。ワクチンを打った場合だけでなく、自然感染でも起こり得ます。

  ADEの詳しい機序は分かっていませんが、分かり易く噛み砕いて説明すると、何十種類という抗体が総がかりでウィルスに向かうのですが、ウィルスのスパイク部位をしっかりと捕まえることが出来れば、ウィルスを弱体化、死に至らしめることが出来ます。また、緩くしか捕まえることが出来なければウィルスは逃げてしまいます。問題となるのは中途半端に捕まえた場合で、この場合、弱体化させられずに、マクロファージなどの免疫細胞に呑み込まれて、その内部で増殖していきます。

  免疫記憶が強く形成されていれば、抗体量が減少しても、免疫記憶が成立した病原体が体内に侵入した場合、中和するのに十分な抗体が産生されます。しかし免疫記憶が形成されていなければ、抗体量の減少によって厄介な問題が生じる可能性があります。

  ウィルスのスパイク部位をしっかりと捕まえることができるかどうかは、スパイク部位への抗体の適合性と抗体量にかかっています。抗体の適合性が完全でなくても十分な量があれば中和することが出来ますが、量が十分でないと中途半端に捕まえてADEを起こす可能性があります。

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