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杉山久子の俳句を読む 23年01月号


太箸をとればゆるりと猫のきて

(句集『猫の句も借りたい』所収)

 季語が新年の「太箸」であるから、作者が食べようとしているのはきっとお節だろう。人間の食べ物で猫が食べることができるものは意外と少ないが、極端な味付けのないものなら、かまぼこなり海老の剥き身なり、重箱の中にご馳走がある。
 猫は高いところが好きだが、室内を移動するには床を歩かなければならないから、脚の長いテーブルの上は勿論、座卓の上の料理を確認するのも難しいものだ。しかし、彼ら彼女らは重箱を開いた瞬間に、その音と匂いに立ち上がるだろう。ではなぜ、機は「太箸をとれば」なのか。
 掲句の「ゆるりと」で作者と猫の関係がよく分かる。猫は作者のご相伴に預かれることをよくよく理解しているのだ。だから慌てることもない。盗もうと隙をうかがう必要もない。もしかしたら、ちょっと年老いた猫なのかもしれない。句をよく見れば、明確な切れがないことが分かる。「太箸や」とか「猫が来ぬ」とは書かず、正月のゆったりとしたときの流れが表現されている。「太箸をとればゆるりと猫のきて」そして作者と猫の時間が始まるのだ。

 なお、鑑賞の第一回に猫の句を選んだのは、杉山久子氏が猫の句だけで句集を出版するほどの、猫俳人だからである。今後も猫の句を交えつつ、氏の秀句を紹介していきたい。

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