今は好きよ
日々の疲れをいやすために、キンキンに冷えたビールを片手に育てている可愛いキノコを眺める。
先日新しい菌床が手に入った。めったに手に入らない種類だ。
元カレには「キノコの栽培とか趣味わりぃなお前」と言われたけれど、パチンコが趣味なアイツよりはよっぽどマシだと思う。
ふと、ベットの上に放り投げたiPhoneが鳴る。
確か友達のサヨコと電話しようって約束してたなと、知らぬ間に針が10時を指していた時計を見る。
「もしもし?いま大丈夫?」
後ろでお湯を沸かすケトルの音が聞こえる。サヨコはなぜかいつもご飯を食べながら私に電話をかける。
「そういえばさ、前に別れた彼氏とはどうなったのよ?ちゃんとお金返してもらった?」
きっと好物のシーフードヌードルだと思われるものにお湯を入れる音と、心配と優越感が混ざったようなサヨコの声が私の耳に響く。
「もうさ、あんなパチカスと付き合っちゃだめだよ。あんたいっつも男運悪いんだからさぁ。いっそキノコとでも付き合ったら?」
立て続けにズルズルと麺をすする音が聞こえる。私はこの音が嫌いで、もっと言えば「あんたのことが心配」なんて言いながら、嬉しそうなサヨコの声も嫌い。
「既読つかなくたってシツコク連絡しなきゃだめよ?」
既読なんか付くもんか。
「アイツどこ行ったんだろうねぇ....荷物全部おいてってさ。夜逃げ?いい根性してるわ」
ビールを持った手の、空いた指でプルタブを弄る。
ちょっとぬるくなったビールを飲みながら新しい菌床を眺め、サヨコに返事をする。
「どこ行ったんだろうね。まぁどうせどっかで野垂れ死んで土にでも還ってんじゃないの?」
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