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パリの地下鉄でスリにあった話

コロナになるずっと前 旅行先のパリでスリにあった。

旅行を楽しんだ最終日 夕方までに空港に行けばよく ホテルをチェックアウトした後は荷物を預けて最後の市内観光をしようと 身軽に街に出かけた。この期間中何回か地下鉄にも乗っていたので その日初めて乗るこの路線にも警戒心を抱きつつも妙な自信を持って乗車しようとしていた。

地下の連絡通路で中学生くらいの少女のグループがいた。地味でも派手でもない普通の格好をしていて 今にして思えばみなリュックを持っていた。中には顔立ちの綺麗な子もいたが ぱっと見感じの悪い集団だった。東洋人の私たちをチラチラと見て仲間内でヒソヒソ何か話している様子があった。その年頃の少女は仲間意識が強く何でもないことで盛り上がったり悪口言ったりするんだよねー、でもとっても感じ悪いな、と見られていた私は反感を持った。だいたい平日の昼間、何でこんなところに集団でいるの?学校は休みなの?と少女たちに心の中で毒付いていた。厳しい目を向けていたに違いない私を見て、少女の1人が小馬鹿にしたようにニヤリと薄ら笑いをし また仲間内で話をしていた。

地下鉄に乗る時 なんとなく少女たちと一緒になってしまった。いやだな と思った。地下鉄内は案外混んでいて押し合うほどではないが隣どなり触れ合う程度だった。感じの悪い少女軍団とその混み具合に辟易してドアの脇に立ちショルダーバッグを前に抱えるようにして私は少女たちに背を向けていた。10月でコートを羽織っていてその内側にショルダーを斜めがけしてさらにそれを腕で抱えてチャックが開かないように上から押さえていたのでこれで大丈夫と思っていた。

扉のもう一つの側に同行者が立っていた。海外慣れ旅行慣れしているその人もバッグを斜めがけして けれど体は少女たちに向けたままドア脇に立っていた。少女の1人が同行者と顔を合わせるようにたったのはこちらからも見えた。次の瞬間同行者は「あ、取られた!」と日本語で声を出してあちこち体を触っていた。スリの現場にいたのは初めてで、同行者も私も気が動転した。まず荷物をたしかめようと ちょうどドアが開いたので駅のプラットフォームに降りてドアの真ん前で2人で荷物を確認した。同行者は、「やっぱり無い!」と日本語で言った。そこになぜが電車の中から何かが投げ出され足元に落ちた。見慣れた同行者のお財布だった。いかにも「落ちてたわよ」という投げ捨て方だった。相変わらず荷物を確認している私の足元にも続けて「ほら、これも」という感じで、長財布が投げられた。紫色の綺麗な財布には見覚えがなく、これはなんだろう?と拾い上げたら、「あ!!それ私の!!」という感じで電車の中にいた女の人が手を伸ばして私の手からお財布をとって行った。その途端 地下鉄のドアが閉まった。電車が行った後も心臓がドキドキしていたが、落ち着いて自分の荷物を確かめると私に被害はなかった。同行者の財布の中身は残念ながら現金を取られていた。


お財布を投げて寄越したのは、中年の女の人だった。紫色の財布の持ち主とその女性は同じ車両のごく近くに乗って、また周囲の人たちも2人の関係を見て知っていて、その後いったいどうなっただろうと気になった。フランス人は多分スリを許さないだろうな、紫色の長財布の人は30代くらいの女の人だったけれど財布を投げた中年の女の人に何か言ったりしたんだろうか?周囲の人も様子を見ていてなにが起きたかわかっていただろうから中年女性にどんな反応をしたのだろう?そんなことばかり気になった。感じの悪かった少女軍団は私たちがドア前でアワアワしているうちに大半はサッと降りてどこかに行ってしまった。荷物を確かめている目の端に 急いで立ち去っていく少女たちのスカートが揺れているのが見えた。

人生で初めてスリ被害に遭ってしまった私たちは、気落ちして観光はもうやめにした。取られたのはユーロのお札とホテルに預けた荷物の引換証だけだった。短時間だったのでスリもそれだけしか抜くことができなかったのだろう。クレジットカードやキャッシュカードが抜かれていなくてよかった。ホテルに預けた荷物をスリ一味に奪われないよう ホテルに引き返して荷物を受け取った。まだ時間はあったがもう観光を続ける気持ちにならず、空港へ向かった。

でもその後 また懲りずに私たちはパリに観光に出かけた。


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