「馬鹿」と「異性恐怖症」は〇んでも治らない...かも知れない。けど、いつかは治したいよねって話。
小学校の頃、水泳教室を習っていた。
当時、背も小さくて勉強も運動も大嫌い。
呆れる位にどんくさかった僕は、
やはり泳ぎが下手で遅かった。
ゆえに当時自分より背が高く体格の良かった
女の子達からは、いつも馬鹿にされていた。
「どうせ遅いんだから一番後ろで泳いでろよ」
「とろい癖に先に泳がれると邪魔なんだよ」
と毎回の様に言われていた。
「なんであんな遅い奴と同じクラスで習わなきゃいけないんですか~」
と、教室終わりに彼女達が先生に不満をもらしているのを
何度も聞いてしまった。
水泳教室がある日は、朝から憂鬱だった。
中学時代。
成長期で背が伸びても気弱で臆病なままだった僕は、
同級生の女子複数人から髪を引っ張られたり
頭を小突かれたりして嫌がらせを受けていた。
親や先生に助けを求めても、
「その程度の事をいじめとは言わない」「今忙しいから」とあしらわれ、
クラスメートに話をしても、
「それはむしろご褒美じゃないか」と馬鹿にされ茶化されるだけ。
ある日の放課後。
この日も僕は女子数人から小突かれたり
馬鹿にするような発言を受けていた。
毎日続く嫌がらせに耐え切れずカッとなり、
お返しだと勢いづいて
僕の髪を引っ張っていた子の頭を平手で叩いた。
その子は直ぐにうずくまって泣き出した。
クラスで人気者のあの娘が泣かされている。
僕達の周りを取り囲むようにして、瞬く間に人だかりができた。
その中のひとり、正義感の強い女子が前に出てきて、
拳を握って僕の頬を殴った。
「男子が女子を殴っちゃいけないって事くらい、分かんねぇのかよ!!」
その怒号を聞いた先生が教室にやってきた。
有無も言わさぬ様相で僕に迫ってきた先生に
腕を強く掴まれ、僕は職員室に連れていかれた。
その振り向きざまに見た景色。
泣く彼女を心配そうに慰める人達と、
侮蔑を湛えた目で僕を見送る人達の姿。
その他大勢の野次馬の視線。
僕は、加害者になった。
今でも、時々あの日の夢を見る。
水泳教室の女の子達。
中学時代の女子生徒達。
今頃彼女達にも
彼氏ができて、旦那がいて、
幸せな家庭などを想ったり築いたりしながら
どこかで元気に暮らしているのだろうか。
そんな僕は今も。
高校生、大学生、会社員問わず…
通勤途中や街を歩くとき、
向かいからやってくる
女性の集団を前にすると
心拍が上がり出す。
足が震えて竦みそうになる。
こんな人間は
景色の一部としてすら認識されていない。
そう分かっていても、
鼓動が早くなっているのを感じる。
「内心馬鹿にされていたらどうしよう…」
などとありもしない妄想を浮かべては、
全身に変な汗をうっすらとかき、
すれ違う時が過ぎるのを待つ。
当然、恋愛も長続きしない。
もし万に一つの確率で、
自分に関心を持ってくれる女性が現れても。
最初はうまくいっていても、
徐々に相手の事が内心憎らしくなり、
心無い態度をとってしまう。
好かれるほどに、
正体不明の怒りを覚えてしまう。
そして最後は相手を怒らせたり
愛想を尽かされて、別れる。
悲しいはずなのに、
心はなぜか、ホッとしている。
それを何度も繰り返している。
原因は明白だ。
目の前にいる女性を通して、
過去の傷ややりきれなさを
清算しようとしているのだから。
あの日、僕を小突き回した彼女達の姿。
あの日、誰にも痛みを理解してもらえず孤独に泣いた帰り道。
あの日、何も言い返せなかった弱い自分の姿。
それらを全て帳消しにしたくて、
心に宿る少年の自己が、
大切な人までも意図的に傷つけようとしている。
こんな馬鹿なことは辞めよう。
ちゃんとこの人を愛さなきゃ。
頭ではそう思っていても、
内心でフツフツと湧き出てくる
成仏されなかった悔しさや怯え、
お門違いの怒りを止められないでいる。
そんな気づきを、
何故か最近、
ふと抱いた。
職場の同期の女の子に対して、
なぜか怒りを覚える自分を発見したから。
特別何かをされたわけでもないのに。
少し華やかな雰囲気を纏っているというだけの理由で、
「お前も昔、僕みたいなやつを虐めてきたのだろう」と、
矛先を向け始める己を自覚したから。
どうやらというか、
やはりというか。
今でも、あの過去からは自由になれていないみたいだ。
それでも僕は、次に進みたいと思っている。
どれだけの痛みを伴おうとも、
どれだけの血しぶきを一面に飛ばそうとも。
過去の自分と真正面から向き合う時が、
いよいよ近づいているのを感じる。
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