忘れ得ぬ君
昔、手のひらよりも
やや大きいくらいのサイズの仔猫がやっとこ離乳した
生まれ環境のせいで日齢から見たら
全然小さい仔猫で
すぐに体調を崩す仔だったが
モリモリゴハンを食べて頑張っていた
飼主さんが決まり
優しそうな飼主さんに安心して引き渡した
飼主さんもとても大切に彼を迎えてくれた
だが、飼い主さんのところへ行くなり
軽い風邪をひいたようで
万全を考え飼主さんは動物病院へ連れて行った
それは普通の人なら誰でも思う選択の1つだった
離乳はしていますという飼主さんの言葉を
聞いていたのか無視していたのか
動物病院の先生は歯も確認せず
サイズのみを見て
ミルクが足りないのでミルクを足せと言い
仔猫は入院する事になった
若い獣看護師が嫌がる仔猫に
シリンジで乳を与えた
仔猫は嫌がって暴れ
上あごが切れて血がにじんでいた
乳は口からも溢れ
嫌がって暴れる仔猫を抑えて足された乳は
どんどん鼻からも溢れてきた
飼主さんが怯え
こんなに溢れたら、、どうしたらと言うと
看護師は テイッシュで鼻と口を拭い
こうして拭けばいいのですと軽く言った
仔猫はぐったりして動かなくなって
熱がどんどん上がっていった
飼い主さんは怯えたが、
看護師はどんどんと乳を仔猫に突っ込んでいった
仔猫はもう抵抗もしなくなっていたが
喉から戻る乳と鼻からあふれる乳で
子猫はびちゃびちゃに濡れていた
おかしいと訴える飼主の言葉に
耳を傾けてくれるものはその病院にはいなかった
飼主は仔猫を世話してくれた者に
泣きながら連絡した
これは普通の事なんですか?
おかしいんです、どんどん動かなくなって と
すぐにそこから出して別の病院にかかれと言われ
飼主は病院にかけあい、ほぼ半ば奪い取るように
ぐったりした仔猫を無理やり退院させ
世話してくれた者のかかりつけの病院に運び
すぐに診てもらった
が、
もうすべてが遅かった
誤嚥した乳は
真っ白に写るまで肺を蹂躙していた
仔猫は窒息状態になっており
気管まで乳が詰まっていて
苦しんで苦しんで亡くなってしまった
熱は肺炎からくるものだった
何故そんな簡単な事がわからなかったのか
何故獣医師はきちんと監督しなかったのか
獣看護師は何故量を突っ込むことを優先したのか
飼い主さんは小さな命を
自分が持ち込んだ病院が奪ったことを
ものすごく後悔して半狂乱になって仔猫に謝っていた
自分が持ち込まなければ、
別の病院に行っていれば、
あの獣医がもう少し注意してくれていれば、
あの獣看護師でない人がいれば、
けれどこの小さな命はもう戻ってこない
かける言葉がないほど、嗚咽は続き
その小さな命につけた名前をひたすらに呼んでいた
私はその動物病院の前を通るたび
あの彼のむっちりした白黒の顔を思い出す
遊ぶことが好きだった ちいさな命の事を
泣いて泣いて死んでしまうのではないかと思うくらい
声にならない声で猫に謝っていた飼主さんの声も
いつか時が巡って心が癒えたならば
もう一度、 猫との出会いが
あの人を癒してくれるようにと
只管に願ってやまない
何年経っても
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