駅近にドーナツ屋さんがあった頃
その頃はまだ私は市内に住んでいなくて
月に数度 銀行や用足しに出かけた際
朝の1番のバスでつくと街はまだどこも開いてない時間だった
駅の近くにドーナツ屋さんが1つだけあって
お店はそこくらいしか早朝に開いてなくて
そこで何時間か潰した後
やっと開いた銀行に向かうのがいつもの行動だった
朝のかなり早くのドーナツ屋は色々な人がいたが
そのうちに必ず見かける常連ぽい人間も見るようになった
恐らく駅の近くにあったネットカフェで寝泊まりしていた
地方からやってきたと思しき女性達
たぶん性産業的なことを生業にしている人達
最初は主婦の方がパートに行く前にお茶してるのかなと思ったが
みんな小さなキャリーバッグを引っ張り
お代わりタダのコーヒーを貰ってはおしゃべりしてた
そして何度か電話があると駅のほうまで向かって
駅のトイレで着替えて迎えにきた車に乗っていくからだ
また、夕方、数回
男性と連れだって食事の店に入っていくのを見かけた
いつもそして相手は違っていた
どうしてそういう職業の人なのかと思ったのは
いつだったかそのグループで一番年上の女性が
コンビニの前で白髪の男性と揉めてるのを見たからだ
「約束がちがう」「それじゃあたしがヤバイじゃないの」
男性はボソボソと何かを話してたが
突き抜けるような女性の大きな声にかき消され
殆ど聞き取れなかった
待ち合わせしたがキャンセルになったのか
それともアフターの約束を断られたのか
女性に車代程度の札を握らせて
逃げるように小走りに去る男性を横目に
女性は誰かにすぐ携帯で連絡していた
「ごめんなさい、さっきのダメだって」
「・・・あたしだって食い下がったんだから」
コンビニの看板の灯りに照らされた彼女の顔が苦労人のそれで
私の一回り上のくらいの年代なのかもしれないと気づいた
その彼女達の姿も
そのドーナツ屋が消えるとほぼ同じ頃にこの街から消えた
彼女は今もどこかの街で誰かを待っているのだろうか
それともどこかで幸せを掴んで平穏に暮らしてるのだろうか
肘をついてドーナツをつまんだ彼女の
赤い唇と豹柄のスカーフを今でもたまに思い出す
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