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人を呪わば・・・の法則


「やぁやぁ、奥さん、こんにちは」
畑にいると管理人さんがやってきた

「ああ、どうも」
そっけなくも思えないくらいの返事に聞こえないよう
さりげなさを装って返事をした


旦那は返事もせず横を向いている
実は旦那はこの人が大嫌いだ


管理人さんは旦那に見向きもせず
こちらに笑顔を向け言葉をつづけた


「やぁ、奥さん、あのさ、、、」


またおねだりが始まった


最初の年、この畑はこの管理人さんの持ち物だった
数年借りているうち、5年目くらいにいつのまにか所有者は変わっていた
だが、皆、管理人さんにそのままお金を払っていた
所有者を借地人の誰も知らず、また知らせず、
いつどうなるのかもわからずそのままの状況だった

「所有者には内緒で貸してるんじゃない?」

向かいの区画を借りているお爺さんが言った
彼は私よりここに長くもう20年近く借りているらしい


「いくらなんでもそれはないんじゃない?」

そう思いたいし、請求されるままに支払っている


「カナコちゃん、なんぼ払ってんのサ」

「なんぼって、、、爺ちゃんたちと同じですよ」


「同じって、、、1区画8000円?」

「うん。同じ。それ×区画数」


「うわぁ、何十万払ってるのさ」


「しょうないじゃん使ってるのは事実だし」



「少しもまけずに?」

「うん」


野菜の売り上げは微々たるものだが

赤字にはならずになんとかやっていた が、
実は売り上げの半分は土地代に消えているのが現状だ



「それなのにアレされてるの?」

「アレって?」


「おねだり」

「。。。ああ、おねだりね」



「年々酷くなるじゃない」

「うん・・・さすがにねぇ」



「あれはちょっとねぇ」

「今はもう安い業者との取引無くなったからね」


最初の頃、私は野菜の苗を安い業者から入手していた
本当に安く、大量に仕入れる事が可能だったので
多めに仕入れては欲しい人に融通していた

無論無料である


それに甘えてきていたのが管理人さんだった



「やぁ、奥さん、〇〇の苗あるかい?」


言われるままに別に気にもせず余っているときはあげていた

だが、2年前、その苗の農家さんは高齢のため農家を辞めてしまった


大量に入る安い苗が手に入らなくなり
うちも当然のように通常の価格で買わなくてはならなくなった


「やぁ苗あるかい?」


「いや、それがね。前の年に言ってたように農家さん辞めちゃってね
もう苗は1本も安く入らなくなったんだよ 

普通の値段で買ってきてるんだよ」



「ええー、じゃ、僕の分は買ってないのかい」

(え、なんであなたの分まで高額な苗を買うの?)


「買ってないのかい?って、

今までも余った時だけあげますよって話だったよね?」



「それでもさぁ、僕が困るって思わなかったの?」

「・・・なんでお金払って、そこまでしなきゃなんない?」


「まぁ、しょうがないねぇ」

「私はちゃんと去年予告してましたよ」


ムッとしつつもそう答えた


数日後、
買ってきたらしい苗を持ち、彼は私にこう言った


「いやぁ、奥さんが買ってくれないから、
しょうがないから苗を買ったよ、

高い金で。いやぁ、高かった」


あー、ナンスカその言い方・・・



殺気を感じて後ろを見ると
射殺すような目で爺ちゃんと旦那が管理人さんをにらんでいた

やばい、この二人は怒ると本当にやばい

なんとかとりなすが、ずっとギクシャクしてたままだった


そしてその秋

管理人さんから共同で南瓜の畑を作ろうという話で
ここに蒔いていいからと場所を指定された

じゃあ、と種を用意して準備したが、
管理人さんは用意しなかった


「だって、俺、畑用意したもん 奥さんが種用意すんのが筋でしょ」


ああ、やられましたね  うん

それでも植えねばならないので、しぶしぶその場所に種を蒔いた


その年は南瓜の生育が良く 蒔いた種もたくさんの実がなった


「奥さん、あの南瓜ね、●月●日に収穫するからね」

・・・遅くないか??

遅くないですか?と聞くと


「いや、その日じゃないと俺いないからさ」


・・・お前の都合かーい!


嫌がる旦那の尻を叩き、収穫の日を迎えた

南瓜を一個一個切り取り、サンテナーに入れて行く
管理人さんはトラクターのバケットにテナーを入れて少しづつ動いて行く

若干、楽をされてしまっているがこの場合はやむを得ないだろう


南瓜はテナーに15個くらいの収穫だった なかなかの豊作である

(1テナーに20個くらいは入る)


管理人さんはテナーから

いびつな南瓜やぼこぼこした南瓜を10個程取り出し


「はいごくろうさん」と地面に置いた 


そしてエンジンをかけて去り際に

「それは手伝ったおだちんだからね」

そう言い残して トラクターで去ってしまった



全部の南瓜は彼のものになってしまった



傍で見ていた旦那と爺ちゃんが大激怒し、
なんだあいつと怒り狂って暴走していた

私は想定の範囲内だったので

「まぁ、そういうことすか」と呆れていた


怒り狂った二人の矛先がこちらに向く方が迷惑だった


(そして、そのやり取りを見ていた
隣のあの「地主」の畑を借りる事になったのは
昨年の話になる)



そして今年、


「やぁ奥さん、あのさぁ、

ナスとトマトの大玉とピーマンと

ししとうの苗あるかい?」




むしろ違う苗探すのが面倒なラインナップじゃんか

私は苗屋じゃないとなんぼいえば・・・


旦那の目は既に狂気に満ちている

そしてお向かいのお爺ちゃんの聞き耳は

巨大化している



「苗たててるって、Aさんに言ってたでしょ」


Aさんは私のはす向かいの借地人だ


あの野郎、ばらしやがったな


「ピーマンとししとうは数ある 

何本要るか言ってくれればわけないでもない」


「ナスは?」


ナスは自家用でも足りないくらいしかないし、

苗がイマイチ、プロのように綺麗にできていない


「ナスは自信ないし、途中で枯れる可能性あるのと、
うちも追加分買う予定なのであげれない


「ぇえ~ くれないっていうと 


買わなきゃいけないじゃないのさぁ」


何を当たり前のことを言ってんだ(汗)


「私だって、管理人に使わせるために植えてんじゃないよ」


「えぇー俺のためじゃないとか、そんなこと言ってないよ~」


ああ、 爺ちゃん、 クワを持つ手を震わせないで
私はそんなにダメージないから


「あっ、そうだ」


今度はなんだ

「奥さん、ネギの苗はないの?ネギ、」

「ネギは買ってません」


「ええー、いつもネギ買うじゃないのー

ダメじゃん、買わないとー」


ああ、旦那、コイツ殺しても何にもならないから、
爺ちゃんと二人でお茶でも飲んで聞こえないとこにお行き


「もういいですかね?」

「んー、そうだ、


キャベツの苗もあるんだよね?欲しいんだけどなぁ」



キャベツもかよ(汗)

「なんぼ欲しいの!」


「そうねぇ、、、50、、、いや40でいいわ」


なんで40「で、いいわ」になるんだよ! 


「お向かいの婆ちゃんにあげる約束してるんでそんなには無理!」


「ぇぇー、なんだあの人また貰う気になってんの?」

「図々しいなぁ」


お前も相当だぞ(汗


「じゃ、30」

無理 20にして


「20ぅー?足りないなぁ、まぁでも、今時期のキャベツだよね」


「秋のは別に苗つくるんだよね?」


秋は作りません、 っていうか元々 婆ちゃん用だもん


「じゃあしょうがない、20で」

「あーあ、キャベツ、足りないなぁ」


ガッとなる旦那を爺ちゃんが抑えている

戻った私にお茶をくれて爺ちゃんがなだめてくれた


爺「いやぁ、酷いな」

そうね 今年は特にひどいね


爺「キャベツ、足りるんか?」

元々うちのためのものは10くらいあればいいだけど
毎年必ず誰かしらくれくれ言うのと


今年は直売所しようかなって思ってたんで

多めに作ってあったんだよね


爺「でもさぁ、土もタダじゃないだろう」


そうね 


黙って聞いていた旦那が口開いた

旦「もう。 キャベツはやめるべ。。。」


ぇぇー、、、、直売用にもいいなって
多く苗用意しちゃったのに・・・

土地もそれ用に増やして借りてるのに



爺「多くって、どのくらい?」

うーん、、、、200くらいかな

「そらまた多いな」爺ちゃんが考え込む


そして旦那にぼそぼそと話しかけている


急に二人の顔が明るくなって

「いいね」 「うまくいくべか」


なんか話している

爺ちゃんが私のところにきて

爺「いいか、こうすればいい」

そういった


*****************************


「管理人さーん!!」


私の呼ぶ声に管理人さんが振り返った


「あのねぇ、婆ちゃんに電話したら、

キャベツ苗、そんなに要らないっていうから

残り全部、管理人さんにあげることにしたよ

 希望の数より「ちょっと」だけ多いけど」



「おお、そうかい!わぁ嬉しいな」


「明日、持ってくるから、植える場所作っておいてね」

「おお。そうかそうか」


「たぶん200だから よろしくね!」



「ぇ。200も!待って、植える場所ないよ」

「えー、知らないよ 私のじゃないもん


「あ、でも、出来たら半分現物で貰うね!
ちゃんと綺麗に作ってね! よろしくね!」




「ちょ、、待って!まって、、、」


爺「おお、管理人さん、キャベツ苗もらえたのか よかったなぁ」

爺ちゃんが畳みかける

爺「それは綺麗に作って、返さんとならんな よし、俺が証人だ」


旦「管理人さんよろしくです」

旦那も頭を下げる

「僕キャベツ好きなんで 楽しみにしてます」


「管理人さんが少ししか要らないって言ったら

私、苗、全部捨てるわ どうせ婆ちゃん用のだし」


「す、、捨てるなら、、、しょうがないか・・・

でもね!肥料だって使うんだよ! 

かなり使う」

反撃する管理人さんに

爺ちゃんがさらに追い打ちをかける


爺「この奥さんはちいさな種を1つ1つ、頑張って作ったんだよな
土も買ってきて作ったんだろう?金はかかってるよなぁ

それを貰ったんだから、粗末にはできないよなぁ」


管理人さんはしぶしぶ


「どうしよう、、どこに200のキャベツを・・・」

と帰ってしまった


爺ちゃんは旦那と二人で「やったなやったな」と盛り上がっていた

二人の話し合いはこうだった


管理人さんは毎年キャベツだけは綺麗に作る

そこで、いっそもう、余った苗は全部管理人さんに作らせてしまって
その出来上がったものを貰おうじゃないか そういう話だった


旦「それ、いいかもですね 場所も食わないし、不織布も要らない」


爺「だろう?おまえさんたちは他の事に集中して、

管理人さんに任せりゃいいんだよ」


爺「どうせそんな数作っても余らせるんだから」

旦「いつも30とか作って余らせてたな」

二人はそんな話し合いをしていた


なるほどねぇ・・・


欲しい欲しいというなら

欲しいなりに動いてもらおうじゃないか

発想の転換ともいえる

捨てたと思えば腹も立たない



「管理人さーん、ししとう何本欲しいんだっけ?」

「ぇー2本?そんなこと言わないで」

「たくさんあるのよー!


どう?100本くらい持っていく?

「あっ、鷹の爪もね!たくさんあるの!

どう?100くらい貰ってくれない?!


電話を切られてしまった



ショック療法は本当に効くらしい

ふふふ 当分はこの手で行こうか


復讐するは我にあり

ここ数年分の溜飲が下がった気がした



おしまい


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