僕の「電カル」奮闘記 その9

再見積もりで、謎の大幅値上がり

当初、僕もシステム・ベンダーも、サーバーやPCだけ買い替えれば、ソフトはそのまま使用できると考えていました。

しかし、富士通に問い合わせると、サーバーのOSが販売終了しているので、対応するサーバーを調達できないというのです。そしてサーバーのOSが変わると、RXのバージョンが変わるため、新しいOSに対応したRX本体も買い直さなければいけなくなりました。つまり、ハードとソフトを、ほぼ全部新品に買い換える必要があるということです。

さらに悪いことに、RXの販売が翌年(2018年)1月に終わることがベンダーから知らされます。これも、寝耳に水でした。

あと1カ月で、RXは買えなくなってしまうことが分かり、とりあえず、慌てて見積もりを取ってもらうことにしました。

こうなると、もう他の電子カルテを検討する余裕はありません。

仕方なく、僕が出した結論は、RXが発売終了する前に、もう一度同じものを購入することでした。あれほど悩まされたRXを、再び買うことになるとは皮肉なことですが、診療業務を混乱させないためには、そうするより他に方法はありませんでした。

もしも、こうしたことが1年8カ月前にわかっていたら、他の選択肢も検討できたはずですが、この時は考える時間は残されていなかったのです。

そして、RXの新規購入を決意した2018年1月、富士通の当院への態度を思い知らされることになるのです。

過去、富士通は、「一体型になるまでの間、保守料は請求しない」という約束をしていましたが、この買い換えで、その約束を撤回することがシステム・ベンダーから告げられました。

保守料の件は、他の電カルと比較する上で重要なことであり、1年8カ月前の最後の定例会の際に尋ねていたことです。その後も問い合わせましたが、無視され続け、やっと来た富士通の新しい担当者も答えてくれなかったことでした。

あらためてその理由を書面にしてほしいとお願いしたものの、富士通からは「それはできない」とシステム・ベンダーに返事があったようです。

そんなやりとりの中でも、RXの販売終了は刻々と迫ってきます。保守料の話は棚上げし、発注に向けて、システム・ベンダーと仕様の詳細を詰め、再度、見積もりを取りました。

ところが、その割引率が、なぜか最初の見積もりよりも10%以上悪くなっているのです。見積もりは、富士通ではなくシステム・ベンダーが作成したものとはいえ、仕入れの多くは富士通からです。当初の見積もりの内容と比べて、仕様の変更があったとはいえ、なぜ10%も値段が上がるのか。

システム・ベンダーは、当院のために良心的に動いてくれていましたが、彼らは富士通のパートナー会社であり、関係をこじらせたくはないでしょう。意趣返しがあってもおかしくありません。そう思っていた矢先の見積もりの値上がりでした。

あまりにも疑問に感じることが多かったため、シスエム・ベンダーのエリア長とも話をしました。多くを語りませんでしたが、どうやら「汐留※」の息がかかったところからは、通常の割引率で調達することは期待できなくなったようでした。

(※富士通の本社が、東京・汐留にあることから、本社や富士通を指す言葉として使われています)

システム・ベンダーへの出荷が当院への納入分だとわかると、何かの力が働くようになったのでしょうか。とうとうシステム・ベンダーからも「RXの再導入はうまくいかないかもしれないから、他社に行ってくれてもいい」という雰囲気さえ感じるようになりました。

そして、「保守料を支払わないなら、富士通は当院にRXを売らないと言っている」という話も風の噂で伝わってきました。

もちろん、電カルを導入しているクリニックが保守料を払うのは当然です。保守料を払わないクリニックに電カルを販売しないという富士通の言い分は一理あります。

でも、僕が保守料を支払ってこなかったのは、富士通が一体型と偽ってRXを販売し、富士通がそれを認めて「一体型になるまでは保守料を請求しない」と自ら認めたからです。その約束を撤回するなら、その理由をきちんと説明をしてほしかっただけなのに、富士通は開き直って売らないというのです。

そのため、この頃、僕はとても不安になっていました。

「もしかして、富士通は僕に電子カルテを売ってくれないのではないか」
「いきなりサポートを中止するのではないか」

理由を知りたくて、システム・ベンダーを通じて聞いてもらっただけなのに。これまでの経緯を説明してほしかっただけなのに。定例会の最終日に、僕が尋ねた質問に答えてほしかっただけなのに。なぜか、富士通は、僕の質問に一切答えようとはしてくれませんでした。

その挙句が、見積もりの値上がりです。僕の保守料についての問い合わせと、再見積もりの値上がりは関係なかったのかもしれません。でも、システム・ベンダーの態度を見ていると、どうしても疑心暗鬼になりました。

今なら、そんなことはあり得ないとわかるのですが、あの頃は、「理由を知りたい」と言い続けていると、RXを販売してもらえなくなるのではないかという不安がありました。

だって、RXはあり得ないことだらけだったからです。

虚偽広告も。遅すぎるスクロールも。会計の間違いも。そして、ひとつのクリニックに、毎月、技術者が来て、「定例会」が行われることも。保守料の減免も。RXをめぐる出来事は、あり得ないことだらけだったため、注文しても販売してもらえないということも、あり得るかもと思ってしまったのです。

いったい、次のあり得ないことはなんだろう。そう思うと、あの頃の心理状況は、憤りより不安の方が大きくなっていました。

そのため、販売終了間近に控えたRXの契約書に判を押した瞬間は、割高な価格にも関わらず、「あぁ、これでRXを販売してもらえる。クリニック運営が滞りなくできる」と安堵した気持ちになったのですから、人の心理っておかしなものです。

新しいRXの契約が終わってホッとしたのも束の間。頭をもたげてきたのが、富士通のやり方に納得できない気持ちでした。

電子カルテの乗換えは、かなりの時間と手間を要します。できればやりたくないことです。そのため、富士通の返事を待ってしまったのは失敗でしたが、もしも早くに知っていたら他の選択肢もありました。

「一体型」にならないのなら、なぜもっと早くにそのことを教えてくれなかったのか。なぜその理由を教えてくれないのか。そして、保守料についての返事を遅らせた上に、一体型になるまでは保守料を請求しないといった言葉を、なぜ覆したのか。

どうしても、「なぜ?」「どうして?」という疑問ばかりが浮かんできます。

そして、とうとう、その理由を知るために、僕は弁護士の力を借りて、富士通に質問状を出すことを決意したのです。

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