僕の「電カル」奮闘記 その12

富士通からの謝罪

最初に送った僕の通知書に対する富士通の回答書は、納得できるものではありませんでした。はじめから一度で解決するとは思っていませんでしたが、誠意の感じられない回答はやはり残念でした。

富士通からの回答書の矛盾点、富士通の事実誤認を指摘しながら、弁護士に、再び通知書を送ってもらうことにしました。そして、その11で記したように、9つの点について具体的に説明や謝罪を要求。誠実な回答を得られない場合は、法的手段に訴えることを伝えたのです。

2通目の通知書に対する富士通の回答書が、弁護士事務所に届いたのが8月上旬。連日30度を超える暑い盛りの頃でした。

富士通とのやり取りは憂鬱だったので、まだ回答書が来ないなと思いつつも、来たら来たで気が重いものでした。回答書に目を通すと、僕との問題を長引かせたくないと思ったのか、言い訳ばかりだった前回とは異なり、きちんと回答しようとする姿勢は感じられるようになりました。そして、いくつかの質問については、「謝罪」の言葉が綴られるまでに変化していました。

まず、「一体型」の開発を断念した経緯と今後の開発予定について尋ねた(ア)(イ)の質問については、おおむね納得のできる説明がありました。その3で記した、処方内容が変わってしまう問題点については、詳細な技術的な説明も含めて説明されていました。当初は実現性が高い解決方法として、真の一体型を考えていたようですが、検討の結果、電子カルテのプログラム言語を変えることで一体型にしないで解決の道が開けたと書かれていました。約束していたはずの一体型にならない事は非常に残念なことでしたが、今後の電カル選びの参考になりました。

ところが、十分なデバッグを行った上での商品のリリース、発売後のバグへの対応についての質問(ウ)に対しては、率直な反省は見られませんでした。

富士通は「製品リリースに際しては、様々なテストを実施しデバッグを行っております。」と回答していますが、それではなぜ、RXはあれほどまでに不具合だらけだったのでしょうか? 当院で実際に起こったバグを振り返ると、リリース前にまともにデバッグを行っていたとは思えません。

一方で、今後については、「開発手順、検査手順の是正、改善を行いながら引き続き品質向上に取り組んでまいります」と述べており、販売開始後の不具合についても、「エンド・ユーザーに対して当該不具合に対して何らかの損害等が発生した場合は」「契約条件に基づき真摯に対応したします。」という言葉がありました。書面でこのように約束したからには、今後はきちんとデバッグが行われることを期待したいと思います。

また、広告表示について要望した(エ)については、連動型の電カルを「一体型」と偽ってカタログやホームページ等に記載していたことの反省や謝罪はありませんでした。「カタログ等に記載した仕様が確実に実施されるよう、また、弊社製品の広告等において誤認を招く表示をしないように努めてまいります」と述べるにとどまっています。

僕は、富士通のホームページで「一体型」と宣伝されていたから、RXを購入したのです。一連の電カルをめぐる問題も、虚偽の広告から発生しているのに反省の言葉もなく、この後に及んでも危機感が薄いと言わざるを得ません。

そもそも「カタログ等に記載した仕様が確実に実施されるよう」ではなく、実装された機能をカタログに書くべきです。その2に記したように、診察室で会計を確認する事も、会計が自動算定される事もカタログではできると謳っていながら、当初はできませんでした。

誤解を招く表示をしないように「努め」るだけでは、再び同じことが起こる可能性もあるということです。富士通は、開発現場と営業・販売の風通しが悪い感じがします。はじめから虚偽広告を出すつもりはないでしょうが、体制が変わらない限り、今後もカタログ等に嘘偽りが書かれる可能性があるということでしょう。

ただし、率直な反省と謝罪もありました。

(オ)の「一体型になるとの約束を反故にしたこと」について、富士通は「開発中の新製品に関する情報は、秘密情報であり、対外発表まで情報提供することはできないことから、対外発表後に情報提供させていただきました。その意味では、当時『一体型になる』と説明したことは自体が適切ではなかったと言わざるを得ません」と非を認めています。そして、「法的な義務違反を生じさせるものではない」としながらも、「道義的には不適切であったと考えておりますので、貴院に対して率直にお詫び申し上げます。」と謝罪したのです。

また、(カ)の「引継ぎなく担当者を交代したこと」については、一言の言い訳もなく、「道義的に不適切であったと考えておりますので、お詫び申し上げます。」と謝罪しました。

(キ)の「説明を1年8カ月間も放置したこと」については、最後の定例会があった2016年4月21日に「SXが一体型ではないことの事実について、貴院にご報告できていたと認識」していたとして、新しいRXを購入した2018年1月24日までには「十分な時間がございましたので、弊社としては、貴院が一体型電子カルテへの切り替えを検討する機会を失ったという認識はございません」と述べながらも、「貴院からの説明の要請があったにもかかわらず、2017年12月まで、ご説明に伺えなかったことは、道義的に不適切であったと考えておりますので、お詫び申し上げます」と非を認めたのです。

こうして、3つの点については、責任を回避する文言を随所に織り込みながらも「道義的に不適切であった」として謝罪してくれました。疑問を払拭できなかったのが(ク)の「保守料の支払いの免除」についての説明です。

定例会では常に、システム・ベンダーの担当者は、「後継機が一体型になるまで保守料は請求しない」と言っていましたし、富士通担当者も同じように表現していました。でも、このことについて約束した書面で、富士通は「プログラム障害による貴院運営に多大な影響が及ぶ不具合が無くなるまで」システム・ベンダーに対して「請求致しません」と書いていました。この文言を盾に、今回の回答書でも、富士通は次のように回答してきました。

「2012年7月18日付けの弊社書面にて回答いたしましたとおり、『EGMAIN-RXソフトウェアのメンテナンスサービス費用は、EGMAIN-RXのプログラム障害による貴院運営に多大な影響が及ぶ不具合が無くなるまで、システム・ベンダー(原本は会社名)に請求致しません。』として、不具合解消までの免除の意思表示はさせていただきました。そして、オーダ情報と会計情報の不整合による『運営に多大な影響が及ぶ不具合』については、2012年9月の修正プログラム適用後は発生していないと認識しています。
弊社として、『一体型になるまで』保守料を免除したことはありませんので、本来、『運用に多大な影響が及ぶ不具合』がなくなった時点で、メンテナンスサービス費用を請求すべきでした。
今回、『EGMAIN-RX V12』を新たに契約頂いたことから、通常通り、メンテナンスサービスをシステム・ベンダーが提案しています。
なお、システム・ベンダーに対して、弊社からの『強硬的な姿勢』等の指示は一切ありません。また、2016年4月の弊社担当者との面談においては、今後の保守料に関する質問があったという認識はありません。」

たしかに、以前もらった書面には、「一体型になるまで」とは書かれていません。富士通は、その書面を「証拠」として出してきたわけです。でも、「一体型になるまで保守料を支払わない」ということは、富士通の担当者と口頭で何度も約束したことでシステム・ベンダーも承知していることです。信頼関係があると思っていたけれど、口約束はなんの意味もないと痛感させられました。

反対に、「強硬的な姿勢」をとって保守料免除の撤回を告げたことについては、「証拠」がないのをいいことに逃げられました。

保守料免除がいつまで続くのかはずっと問い合わせをしていたことでした。ところが、富士通からはいつまでたっても返答がなく、その撤回が告げられたのは保守切れ間近で、電子カルテ操作の特性上、他社製品に乗り換えるのが物理的に難しい時期でした。新しい電子カルテを慌てて導入すると診療業務に支障が出てしまうと焦るなかで、「新たな保守契約を結ばないとRXの契約はできない」と言われたのです。

僕は、保守料を支払いたくなかったわけではありません。なぜ、僕の問い合わせを放置し続けたのかを知りたかったのです。富士通は、強硬的な姿勢などとっていないというけれど、なぜ、この時期まで保守料について話し合うことを避けてきたのか。僕は、この疑問を一生抱え続けていく事でしょう。

(ク)で、「見積もりの割引率が低下した理由」についても、再び問いただしましたが、前回の回答書からの前進はなく、「(システム・ベンダー)の意向であり、弊社の意向ではありません」と答えるにとどまりました。どこまで信じればいいのかはわかりませんが、「現在まで一切不当な取り扱いは行っておりませんし、今後も不当な取り扱いをいたしません。」と明言してもらった事実は残りました。

つまるところ、書面で残っている事柄、明らかになった事実が道義的に問われるものに関しては謝罪を述べてくれましたが、口約束で証拠のないものについては通り一遍の回答がきたわけです。

定例会でずっと同席していたシステム・ベンダーに協力を仰げば、もう少し追求できたのかもしれませんが、担当者が嫌がらせされたりしないかと思うと、そこまで踏み込むことはできませんでした。

そして、僕はこれでRXをめぐる富士通との交渉に、ひとつの区切りをつけることにしたのです。

回答書の内容に完全に納得できたわけではありません。「言ってたことと違うじゃないか」と、裏切られたという気持ちも残っています。とはいえ、通知書で時間軸を明らかにして、具体的な質問をしたことで、富士通の電カル開発の経緯で分かったこともありました。それに、製品開発の説明不足や引継ぎなしの担当者交代、僕の質問を1年8カ月間放置したことについては、正式な謝罪の言葉を引き出すこともできました。

何より弁護士を通じて通知書を送ったことで、無視し続けてきた富士通本社がやっと答えてくれたことで(その内容が満足いくものではないにせよ)、僕の気持ちはちょっとだけ救われたからです。

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