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外科医と医者

初期研修を終えて自分の進路として、

『外科医になる』

と決めて、母と二人で外食しに行き、母に外科に進むことを伝えました。
母はさらりと

「そう。貴女が決めたなら仕方ない。頑張りなさい。」

と言いました。
そして、次に

「貴女は名医になろうとするのではなく良医になりなさい。」

と。
そして、その言葉に私もしっくりと来て、

『良医になる!』

と心に決めました。

そして、外科医としての多忙な毎日が始まった。全てにおいてがむしゃらな日々。

ただ
『外科の組織の一員として少しでも認めて貰いたい』
『手術に関わりたい』


という気持ちから

どんどん
『手術がしたい』
『オペレーター(術者)になりたい』

という気持ちが強くなってきました。

自分が担当した患者さんが元気になって退院していく姿を見る時の達成感
または
目的に沿う手術ができた時の充実感
最高でした。

どんどん手術がしたくなって、腕を磨きたくて、日々の仕事を頑張る。
そうすると徐々に割り振られる手術の難易度が上がっていく。

ある日、またいつもと同じ様に手術を割り振って貰いました。

自身としては初めての術式。嬉しい気持ちでいっぱい。

そして、上司と一緒に患者さんに会いに行きました。

コミニュケーションを取って少しでも信頼して貰える様に努力します。
術後のケアも外科医としてはとても大切なのでコミニュケーションを取ることはとても重要と考えていたからです。
その患者さんは他の科に入院していたので毎日病室まで会いに行きました。
患者さんの気持ちになるべく寄り添おうと努力しました。

手術前々日、再度上司と一緒に会いに行ったら症状が改善したために手術をしなくてもいい状態と判断が下ったのです。


『手術中止』または『手術延期』

患者さんにとっては良かったことです。
身体に傷をつけなくて済むのです。

私はというと…

正直、
「そうなんだ…」という気持ちと
「良かったじゃないか…」という気持ちと…
「残念…」という気持ち。

上司が患者さんと話をしているのを聞いて私は何も言わずに笑顔を作りその場にいましたが、
私は思っていることが顔に出るタイプで、上司が私の顔を見て患者さんの病室から出た後に

「おい、外科医としては気持ちは分かる。でも、医者としては失格だぞ。」

と言われました。

私は、はっ!としました。
外科医の前に医者であるはず。
患者さん第一のはず。
しなくてもいい手術はしてはいけないはず。
誰も好んで身体に傷をつけるわけではないはず。

大切なことを守っていたはずの自分が肝心なところで患者さんを思う心が後回しになり、患者さんに寄り添っていなかった事実を知り愕然としました。

『良医になる』

もう一度初心に帰ろうと決意した時でした。

以降、勿論、

『患者さんの心と身体に寄り添う』
『木を見て森を見る』

努力を継続しているのは言うまでもありません。

注意してくれた上司は、男尊女卑などなく私がミスすると躊躇なく蹴りが飛んでくる、でも愛がある人でした。この上司の一言がなかったら私の気付きはいつ得ることができたか分かりません。

『感謝』

#あの失敗があったから

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