職場のハラスメントによる経済損失― 疾病休業・労働生産性・離職の観点から
本記事は、産業医学ジャーナル44巻4号に掲載されたものです。引用の際は下記を明記ください。
津野香奈美.職場のハラスメントの経済損失―疾病休業・労働生産性・離職の観点から―.産業医学ジャーナル.2021; 44: 4-10.
要 約
パワーハラスメント(以下,パワハラ)やセクシュアル・ハラスメント(以下,セクハラ)が労働者の健康に悪影響を及ぼすことは,これまで多くの研究で報告されてきた.我が国では2020年にパワハラ防止措置を義務付ける法律が施行され,より一層のハラスメント対策が求められている.そこで本稿では,これまであまり明らかにされていなかった我が国のハラスメントの経済損失について計算した結果を報告する.
Ⅰ はじめに
パワーハラスメント(以下,パワハラ)やセクシュアル・ハラスメント(以下,セクハラ)が労働者の健康に悪影響を及ぼすことは,これまで多くの研究で報告されてきた.そのため,労働者の健康を守るためという観点でのハラスメント対策の必要性は十分に認識されていると思われる.一方で,ハラスメントが会社や我が国にどの程度経済損失をもたらすのかは,意外にも明らかになっていない.
我が国では2020年6月にパワハラ防止措置を義務付ける法律が施行され,パワハラ防止指針が新たに発表されるなど,より一層のハラスメント対策が求められている.特に経営層にハラスメント対策の重要性を訴えるには,具体的にいくらかかるのかを算出することが必要と言える.そこで本稿では,海外における既存の報告を紹介すると共に,我が国においてハラスメントを受けた場合にどのくらい生産性が低くなるのか,どのくらい疾病休業が取得されるかを明らかにし,それらの数値を基にどの程度経済損失が発生するかを計算した結果を報告する.
Ⅱ ハラスメントが個人,組織,社会にもたらす影響
1 .ハラスメントが個人にもたらす影響
ハラスメントを受けることと,様々な健康・心理関連アウトカム(易怒性,恐怖,強迫観念,心理的ストレス反応,心的外傷後ストレス障害[Post-Traumatic Stress Disorder: PTSD],自殺,タバコ・アルコールの消費量増加等),生産性・仕事関連アウトカム(生産性,モチベーション,コミットメント,仕事の満足度,不本意な契約終了等),生活関連アウトカム(引きこもり,生活の不安定さ等)との関連が明らかになっている(1).
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