ご機嫌さん
自分の機嫌のとり方を知っている人とは、一緒にいて居心地がいい。
同じ部署の先輩は、どんなに忙しくても、暇でもテンションが変わらない人がいた。
忙しいときに話しかけても、朝一で厄介な案件に巻き込まれても、帰り際に最大のミスが発覚したときも、テンションがひとつも変わらない。
ある日、仲が良い人が先輩に、「本当にコーヒー好きだね」って話していた。
すると先輩は、「私はコーヒーさえ飲めればいいから」って、コンビニのコーヒーを啜っていた。
私は先輩に「そんなにコーヒー好きなんですか?」って聞いてみると、「うん、コーヒー好き。好きな味があるけど、基本的にコーヒー飲んでれば安心する」と、大問題が起こっているときと何も変わらない顔で言った。
それから先輩の飲み物を見ていると、スタバ、ドトール、コンビニなどなど、バラエティー豊かなコーヒーをいつも楽しんでいた。
そういえば、会社の事務の女性って、仕事で使う文房具を会社で支給される物じゃなくって、自腹で好きな物に変える傾向にあるけど、先輩はすべて会社の支給品だった。
それに、いつも持ち物が少なく、デスクもスッキリしていた。
無駄な話を一切しないんだけど、会社の誰とも仲が良かった。
いつも、大荷物を抱えて会社と家を行き来し、デスクの上にも引き出しの中にも物がぎっしり入っている私は、先輩が不思議でならなかった。
そして、先輩で言うコーヒーは、私にとってなんだろうと思った。
それがあれば心が落ち着き、それがあれば他にごちゃごちゃと物がいらない、私にとってのコーヒーってなんだろう。
ずっと考えているけど、みつからない。
それなりに好きな物はあるけど、心が落ち着くレベルではない。
結局、あれも好きだしこれも好きだから、決めきれない。
それなりに好きな物を抱えて、本当に好きな物もわからなくなっちゃった私は、在宅の仕事でも家が物でいっぱい。
ただ、きいろの物はなんだか大好きで、家のあちこちにある。
先日も、ハサミを買い替える機会があって、きいろいハサミにした。
ある程度、長い時間持つものはきいろの物にして、無ければ買わない、そんな選択をするようになった。
相変わらず、あれもこれも好きだけど、先輩のお陰でひとつの基準ができた。
きいろの物を選ぶこと、きいろの物が視界にあると嬉しい気持ちになること。
やっと見えてきた。
自分にとっての”先輩のコーヒー”は、見つけるのもいいけど、育てるのもいい。
有形でも、無形でも。
そうやって人生を楽しもう。
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