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あなたに合う漢方薬を人工知能が予測する未来 ~<前編>漢方医学で診断と治療ってどうやるの?~
※この記事は、日本科学未来館で科学コミュニケーターとして活動しているときに執筆したブログ記事です。【2017年1月6日の投稿】を編集・追記。当時の活動を振り返る”編集後記”を載せて再掲載しています。
【編集後記】漢方スクールで中医学を、漢満堂のつまずかない漢方講座で日本漢方の基本を学んだ私が、日本科学未来館の科学コミュニケーターをしているときに運命的に出会った”漢方×人工知能”の研究。これはぜひとも伝えたい!と猛プッシュで実現した取材ブログです。漢方医学って何?いつもの病院で診てもらうのと何が違うの?って方に読んでほしいです。
"人工知能があなたの体質や症状から最適な漢方薬を予測し、医者の適切な診断と治療をサポートする"
そんな未来を思い描いている研究者に会ってきました。
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医者がいるのに、なぜ人工知能のシステムが必要なのでしょうか?そもそも漢方医学における診断と治療はどのように行われているのでしょうか?
最近、漢方と人工知能の組み合わせに興味をもった私は、慶應義塾大学の漢方医学センターにおじゃまし、漢方医であり研究者でもある、渡辺賢治先生と吉野鉄大先生にお話を伺ってきました。あまり知られていないかもしれませんが、「漢方専門医(漢方医)」は、漢方医学も西洋医学も併用できる医師として、日本東洋医学会で認定された医師を指します。医師ですから、もちろん国の出す医師免許も持っています。
![画像2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/27072383/picture_pc_8a2fb1890bec6390a051cc336dc1f126.jpg)
(慶応義塾大学にて 左:医学部吉野鉄大先生、中央:新山(執筆者)、右:環境情報学部(漢方医学センター兼担)渡辺賢治先生)
以下の項目を、2回に渡ってご紹介していきます。
<前編>漢方医学で診断と治療ってどうやるの?
ではさっそく、前編「漢方医学で診断と治療ってどうやるの?」を見ていきましょう。
漢方医学の得意分野は、生活習慣病やアレルギーなどの慢性疾患、頭痛、不眠などの不定愁訴、自己免疫疾患などです。漢方医学では"病気"でなはく、"病人"に注目して、治療法を決めるため、西洋医学では病名が付かない症状でも、症状と体質から治療法を導くことができることをこちらの記事でご紹介しました。
西洋医学の場合は、医師による問診や聴診器を使った聴診、脈などを調べる診察に加えて、さまざまな検査結果(血液検査、尿検査、病理検査、レントゲン検査など)から、病名が診断されますが、漢方医学の場合は、血液検査や機械を使った検査は行っていません。ではどうやって病人の状態を知り、治療方法を決めているのでしょうか?
●漢方医学ではいわゆる"診察"がいのち!最適な治療法はこうして決める
まず、医師が患者を見て(望診)、声を聞いて(聞診)、たくさん質問して(問診)、脈やお腹を触る(切診)などして患者の症状や状態を分析します。下図のように、検査のための機械や検査薬を使わずに、医者の五感と問診で患者がどのような状態なのかを見極めることが大きな特徴です。そして、これらの情報から、"患者の状態"を表す"証"を決定します。
次に、患者の"証"と主訴(患者が一番つらいと感じている症状)などから、最適な治療方法を医者が決定します。最適な治療方法というのは、漢方薬の選定に限らず、鍼灸治療なども選択肢に入ります。また、症状によっては西洋医学と組み合わせる場合もあるそうです。
![画像3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/27072445/picture_pc_804521a9241dfc632bb8177024e4d9f6.png?width=1200)
"証"は漢方などの東洋医学独特の体の状態の分類で、日本漢方の外来では、虚実(体力・体型など)、寒熱(身体の熱さ、冷えやすさなど)、気血水(体をめぐる要素が不足もしくは滞ることによる不調)、六病位(病態の進行状況)の4つのものさしを主に用います。"虚実"、"寒熱"はあらゆる人に、さらに風邪や感染症などの急性疾患の人には"六病位"、アレルギーや生活習慣病などの慢性疾患の場合には"気血水"というものさしを使います。それぞれの証で見られる症状のごく一例を下図に記します。
![画像4](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/27072511/picture_pc_f7a716662ab69bacd4f00039e7a892a2.png?width=1200)
![画像5](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/27072539/picture_pc_e8eca545c1881b77130427c81bc9d609.png)
![画像6](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/27072569/picture_pc_c4a7c32eb212f7d002da218987a46980.png?width=1200)
このように、漢方医は患者の状態から証を見極め、適切な治療方法を選択し、生活習慣もアドバイスします。渡辺賢治先生は「日本漢方は西洋医学と全く異なる視点から患者の状態を捉えるため、西洋医学を補完し合える関係にある」と言います。
このように、患者の証-治療方法とその効果のデータを日本全国、世界で集めていけば、さまざまな体質や状態の患者にとって最も効果的な治療が分かるようになります。それだけでなく、これまで経験則だった漢方医学も、統計的に効果を検証することができるでしょう。そのための第一歩として、漢方を含む東洋医学で使われる人の体質や状態を表す分類が、国際的に決めた病気の分類(国際疾病分類:ICD)に入ることを前回の記事ではご紹介しました。
しかし、一言に「データを集める」と言っても簡単ではありません。
●漢方の診断における課題とは?
証と治療の効果のデータを集める上での課題は大きく2つあります。1つ目は、同じ患者でも診る漢方医によって患者の証が変わる場合があることです。つまり、"証の再現性がない"場合があるという問題です。例えば、やせ型だが体力はある場合は、診察の進み方によって実証、虚証、中間のいずれにも分類される場合があります。また、いつも冷えているわけではない人を寒証と判断するかどうかは、漢方医によって異なる場合があるのです。証が異なれば、選択される漢方薬も当然異なるということです。
二つ目の課題は、漢方による治療効果は、主に本人の自覚症状により評価されることです。西洋医学であれば、患者本人の自覚症状だけでなく、血液検査などの検査結果により効果を評価することができますが、漢方の場合は本人の主観以外に評価のしようがないことがほとんどです。そのため、治療によってどのように患者の状態(証)が変化していったのか、客観的なデータをとって、分析することが難しく、傾向や新しい知見が得られにくいのです。
そこで、これらの課題を解決し、個人の体質にあった再現性のある医療を目指すため、"人工知能が患者の証を予測するシステム=自動問診システム"が開発されています。
次の記事では、以下をご紹介していきます。
●どうしてこのシステムが課題解決につながる可能性があるのか
●自動問診システムの今の性能は?
●このシステムが実用化されればどんな未来の医療があるのか
「漢方医学×人工知能」とややマニアックな領域に入ってきていますが、ぜひお楽しみに!
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