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6月28日は「パフェの日」

ほこり臭い店の中は、もうほとんど商品はなく何に使ったらいいか分からない古い道具だけがあった。

古道具屋さんが閉店するとの張り紙を見て、何度も店の前は通ったことはあったが、はじめて店内に足を踏み入れた。

狭い店は時代から取り残されたように静かだった。あっという間に店内を一周し、店を出ようとした時、

鉄やら木がくすんだ色しかないと思っていた店内に、虹色に輝くそれを発見してしまった。

それは古いガラスの飾り棚の中にあり、そこだけが白黒テレビからタイムスリップしたようなシャープの液晶テレビだった。

近づく私、ガラス越しによく見るとアイスクリームや刺さったメロンが見えた。あぁ、なんて場違いなところにいらっしゃるのでしょう。
その大きなパフェから私は目を離すことができなかった。ずーっと見ていた。

はたしてこれは売り物か? 疑問がわく。いやいや売り物だとして、私はこれを買うのだろうか?
一応聞いてみようと店員さんを探して店の奥に向かった。

「すみません」と自信なさげな小さい声のわたし。古道具屋での正しい音量が分かりません。

すると奥から、THEおじいさんが出てきた。どこに出しても恥ずかしくないようなおじいさんだった。

私は尋ねる「あのぉ、あのパフェは売り物ですか?」

指さした方向をおじいさんは見て、私を見て「パフェが好きかい?」と聞いて来た。

私は卒業式並みにはっきりと「はい!」と答えた。これは私への試験だ。この返事で私のパフェ愛が試されているんだと勝手に思い込み、卒業式並みの声になった。

私はそれだけではパフェ愛のすべてを伝えきれないと判断し、思い出作戦に出る。

「子供のころに食べたパフェに似ていて……」最後の……と余韻を残すことが重要だ。

するとおじいさんは無言でうなずき、パフェまで近づくとガラスを開け、大きなパフェを両手で持った。

そのおじいさんがカラフルな大きいパフェを大事そうに両手で持つシーンは、なぜか私の中の思い出フォルダの『大変尊い』シーンに入れられたようで、何年かに一度そのシーンを思い出しては、なんかいい! と感慨に浸る。

「これでしょ?」とパフェを持つおじいさん。

「はい、売っていただけるんですか?」

「いいや、お金はいらんよ」と大事な赤ちゃんを渡すように、わたしにそっとパフェを託してくれた。

早速家に持ち帰り、部屋の一番目立つところに置いた。

毎日毎日飽きることなくパフェを見ているが、やはりこの食品サンプルのパフェにとって輝ける場所は、あの古道具屋のおじいさんが抱えた時だったなと思っている。

6月28日は「パフェの日」


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