20180918 虫の闇震えて震えて止まぬ地図
虫の闇震えて震えて止まぬ地図
この間の8月、小学1年生から6年生までのこどもたちをあつめて、句会をした。兼題は「夏休み」。驚くほど素直で、自然な俳句が、実に107句集まったのだった。
こどもたちと句会をやってみた その1(句会の日のために準備を)
こどもたちと句会をやってみた その2(句会当日のことを)
こどもたちと句会をやってみた その3(こどもたちの句をいくつか)
最後に、この句会でうまれた、ちょっといいことを書こうと思う。
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なつやすみうんちをしてかなしいな
「と、読みます」。わたしは今日の句会にお迎えしたふたりに、事前に説明をした。その句は、曲線がとげとげしたひらがなで書かれていて、彼を知っているひとにしか、とても読めない。
「かなしいな、がいいね」「これ、とてもわかる句だよね」
わたしも、とてもそう思っていた。
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句会で、わたしは彼の句を読み上げる。予想していたとおり、こどもたちはへらへらと笑った。ゆるい笑いが落ち着いてから、わたしたちは感想を述べる。
「うんち…(ふふふ、と少し笑って)、面白いね」。また、少し笑うこどもたち。「かなしいな、がとてもいい。本当に、とてもいい。おとなには作れなくて、こどもにもなかなか書けない表現だと思う」。
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教室の彼の姿について、句会が終わってから、他の先生が教えてくれた。彼はじっとしているのが非常に苦手だ。この日も他の子の句が詠まれるたびに「これ〇〇(名前)のやつだ!」とか、大きなつぶやきが絶えなかった。お迎えしたふたりは別にいい、と気にしないふうだったが、その先生は外部から迎える先生に失礼があってはいけないと、ずっと彼のそばについていてくれた。その彼の横顔について、話してくれた。
「〇〇くん、ずうっと笑っていたんですよ」
句が詠まれて、にこにこ。感想が始まって、にやにや。その先生の体に背中をくっつけて、足を伸ばして、少々小学三年生にしては幼い姿だ。そのあとも続いていく句会を、にやにやしながら、その先生に興奮する体を預けて、落ち着いて(落ち着かせていたのではないかと思う)ずっと聞いていたのだという。
「内橋先生、びっくりしたのよ、わたし」。わたしだって、ちょっとびっくりした。普段、学校で先生や友だちに注意されることが多くて、褒められることの少なかった彼。こんなにも、心から笑う彼を見たのは、はじめてだった。
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107句の俳句を2部屋に分けて、各45分ずつ。1部屋めでは、わたしの司会が迷走して、15分ほど時間を超えてしまった。こどもたちは、よく耐えてくれたと思う。
わたしは2部屋めが終わって、ふたりを控え室に案内しようとしたのだけど、ふたりとも帰り道へと踵を返した。とてつもなく暑いなか、ひとりは夏野菜の植わった学校の農園を見遣りながら、もうひとりはまっすぐ校門へと歩いていく。門に差し掛かったところで、ふたりはこちらに振り返って、わたしもふたりに向かって、手を振りあった。
「こども句会」が、だれかにとって、小さな夏の思い出になったらいいな。またどこかで、きっと次を。
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