【小説】マザージャーニー / めぐる、冬 3

本作は2020年「News Picks New School 大友啓史×佐渡島庸平『ビジネスストーリーメイキング講座』の6ヶ月間で作り上げ、kindleには販売中の小説です。

この6ヶ月間は私にとって、転機となる半年間でした。知りたかった学び、出会いたかった仲間、本当に楽しく作品と向き合い続けることができました。
本作を完成させるにあたり、大友啓史監督、株式会社コルク 代表取締役 佐渡島庸平さんはじめ、同じ受講生の仲間たち、運営スタッフのみなさま、そして新たなチャレンジを応援してくれた夫より、多くの助言をいただきました。

note用に少しだけ微修正してます。
ぜひご覧くださいね。

↑はじめからはこちらより

↑こちらに全話まとまってます



夜明け、まどろみの中で、遠くから軽トラのエンジン音を聞いた。


あれはなんだったのか。


あまりよく眠れないまま朝が来た。

洗面台の前に立つ。そこには、お父さんの黒い歯ブラシと、お母さんのピンク色の歯ブラシが並んでいた。


台所に行くと、つんと空気が冷たかった。

昨日のままのにおい。

私はまた、バクダンおにぎりをにぎった。

8時を過ぎても、お父さんがいるはずの二階はしんとしていた。
テーブルに残る、お父さんの分の、真っ黒なおにぎり。不安になってお父さんの部屋をのぞいた。めくれた布団がぺたんこになってるだけだった。

寝ている間に死んじゃったわけじゃないと、少しほっとした。
車庫には、軽トラがなかった。
もしかしたら、ちゃめ仕事に出たかな。うん、そうかもな……。




がんばろう、と自分の頭をコツコツたたき、作業場に向かう。

さつまいもが入ったコンテナをケンさんが一人、積み上げていた。いつも通りの姿でそこにいる、赤いつなぎのケンさんに、胸がぎゅっとなった。


「あれ、社長は?」


「たぶん……朝から出てるみたいで……」


「携帯も繋がらなくて。今日の段取り、どうすんっかなぁ。明日、雨っぽいから、今日のうちに畑片付けないと」とスマホを見るケンさん。


「……ケンさん」

「ん?」


「……ありがとうございます」


ケンさんは少し間を置いて、ハッと笑ってから、茶色い頭をガシガシし、

「まーさ、自分たちがやれることやろ。畑も天気も待ってくんねーし」


「……」

私はぎゅっと首タオルを巻いて、二人で軽トラに乗って畑へ出た。


***

お父さんは、お昼になっても帰ってこなかった。

ここから先は

1,430字

■この航海はどんな旅? 言葉の力を通じて、争いのない、心うごく世界を作る道のりを共有する、「好奇心と…

メンバー

¥500 / 月

サポートメンバー

¥980 / 月

パトロンメンバー

¥3,500 / 月

いただいたサポートは、里山農業からの新しいチャレンジやワクワクするものづくりに投資して、言葉にしてnoteで届けてまいります!よろしくお願いします。