【小説】マザージャーニー / めぐる、冬 3
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夜明け、まどろみの中で、遠くから軽トラのエンジン音を聞いた。
あれはなんだったのか。
あまりよく眠れないまま朝が来た。
洗面台の前に立つ。そこには、お父さんの黒い歯ブラシと、お母さんのピンク色の歯ブラシが並んでいた。
台所に行くと、つんと空気が冷たかった。
昨日のままのにおい。
私はまた、バクダンおにぎりをにぎった。
8時を過ぎても、お父さんがいるはずの二階はしんとしていた。
テーブルに残る、お父さんの分の、真っ黒なおにぎり。不安になってお父さんの部屋をのぞいた。めくれた布団がぺたんこになってるだけだった。
寝ている間に死んじゃったわけじゃないと、少しほっとした。
車庫には、軽トラがなかった。
もしかしたら、ちゃめ仕事に出たかな。うん、そうかもな……。
がんばろう、と自分の頭をコツコツたたき、作業場に向かう。
さつまいもが入ったコンテナをケンさんが一人、積み上げていた。いつも通りの姿でそこにいる、赤いつなぎのケンさんに、胸がぎゅっとなった。
「あれ、社長は?」
「たぶん……朝から出てるみたいで……」
「携帯も繋がらなくて。今日の段取り、どうすんっかなぁ。明日、雨っぽいから、今日のうちに畑片付けないと」とスマホを見るケンさん。
「……ケンさん」
「ん?」
「……ありがとうございます」
ケンさんは少し間を置いて、ハッと笑ってから、茶色い頭をガシガシし、
「まーさ、自分たちがやれることやろ。畑も天気も待ってくんねーし」
「……」
私はぎゅっと首タオルを巻いて、二人で軽トラに乗って畑へ出た。
***
お父さんは、お昼になっても帰ってこなかった。
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