【小説】マザージャーニー / つきる秋 4
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あたりが夕日にそまるころ、立派なはざかけが完成した。
みんなで、はざにかかった稲を見上げた。
木々の隙間から漏れる夕日は、稲の上でまだらに揺れていた。そのせいか、稲穂の黄金のカーテンは、静かに風に揺れているように見えた。
登さんが何気なしに、稲をひとつひとつなでていく。女の子の髪をなでているようだった。その姿は、おじいちゃんの登さんじゃなくて、誰かのお父さんだった登さんに見えた。
「そうやると、何が分かるんですか」
「触れば分かるよ」と、登さんはふふと笑った。
私も同じようになでてみた。
籾が手のひらではじけながら、すべっていく。心地いい粒の重みは、命の重みだった。太陽を浴びたぬくもりが、稲の体温みたいで、手の中で目をとろりとさせて、まどろんでいるようだった。まだ生きている。
「刈ると死んじゃうんじゃないんですね」
「ずーっと生きてるよ。こうやってるときも、玄米になっても、精米しても、毎日少しずつ水分も味も変化してくからね」
「いつ死んじゃう?」
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