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きっと晴れるよ、お姫さま

トトトと屋根を打つ雨の音が、薄くなってゆく夢にゆっくり重なってきた。
絹のようなひんやりとした風が、頬をなでていったところで目が覚めた。

今日は雨か。


窓の下に目をやると、畑の緑が雨に濡れて濃く際立っていた。
手足を投げ出し、あっちこっちと重なり合いながら眠るこどもたち。
その隅っこで、背中を丸めて縮こまっている夫のうしろすがた。


今日は雨か。


のっそりと起き上がり、ベッドのはしに腰かける。
よしよし、君もよく眠ってくれている。
生まれて1ヶ月経ったばかりの長男のぷくぷくした寝顔をそうっとのぞきこむ。


「おかあさん、おはよう」


唐突にうしろから声がして、びくっとする。
振り返ると、6歳の長女が次女と折り重なったまま、ぱちくりと目を開けていた。

「おはよう」

長女はえいのえいのと次女の体を押しのけ、同じようにちょこんとベットのはしに腰かけた。


「あした、運動会」

「うん、そうだね」

「あした、晴れるのかな」

「あしたは晴れるよ」

「そっか」

「最後の運動会、たのしみだな」

「うん」


何日寝たら運動会か、指折り数えていた長女。
長女のクラスは7人。毎晩座布団を広げては、運動会で披露するらしい前転やダンスや雲梯を練習していた。7人だから、一人一人が主役になる(なってしまう)運動会。そして、年長さんとして最後の運動会。
緊張もひとしおらしい。

「あと1回寝たら運動会か」

「うん」


「今日は、雨だから、雨色のお洋服、着よっかな」
と、長女はぴょんとベットから飛ぶように降りた。そして振り返り、にっと口角を上げ首をかしげた。目覚めたばかりの長女は、朝のお姫様さながらのふるまいだった。


明日は晴れるよ。
きっと晴れるよ、お姫様。

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