【マザージャーニー】めぐる、冬 1
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↑こちらに全話まとまってます
ヨワオのことばを思い出した。
『ずっとねむくて、ねて、ねて、そしたら起きれるようになった』
……ほんとだ、ねむくて、ねむくて……
―ママ、今日、となりでねてもいい?
―ママじゃないよ。もう恥ずかしい年齢だから、私のこと、お母さんって呼びなさい。
遠くからは、かすかにお父さんの声が聞こえたが、私は暗くて深い眠りの沼に沈んでいった。
薄目を開けると、白い天井と、蛍光灯が見えた。体中が痺れるように痛かった。
まぶたが重くて、また目を閉じた。
それを何度かくり返した。
ある時は、真っ暗だった。ある時は、白い光の中だった。
何度目かで薄目を開けた視界の端に、お父さんが見えた。
「双葉!」
お父さんは私にがばりと覆いかぶさり、顔をのぞき込んだ。
「双葉!」
お父さんの顔が歪んで消える。
ここがどこで、いつなのか、分からなかった。
何回か夜を越え、朝を迎えた。あんなに家にいなかったお父さんが、いつもそばにいる気配がした。日ごとに私に繋がれていた管が減っていった。
そしてやっと、状況が分かってきた。分かってしまった。
「……ああ……」
世界がゆがんでく。
「お母さんに……会えなかった……」
私はお母さんに、拒絶されてしまった……。死ねなかった。お母さんに会えなかった。目の端に、熱い液体を感じた。
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2,030字
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