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【臨床から学ぶ】産後の腹直筋離開への評価・アプローチの考え方

2022.4.29 加筆 
・「腹直筋離開の実際の状態」に凸のタイプと凹のタイプの写真と解説を追加しました!
・「腹直筋離開の評価②カールアップ」を加筆しました!
・「腹直筋離開のアプローチ」に「ADL指導」を加筆しました!

実際に産婦人科の中で妊産婦さんのケアをしていたり、自宅サロンで産後のママさんたちのケアをする中で臨床的な学びがたくさんあります。

この分野自体、エビデンスが少ない中で、臨床的な学びや疑問からその後の研究につながっていくような段階。
それでも日々、妊産婦さんは日常的に困っている方が多くなんとかしてあげたいという気持ちを持っているセラピストさんはたくさんいらっしゃるんじゃないでしょうか。


医学的な学びを重ねつつ、臨床の中でたくさんの妊産婦さんと接している産前産後分野の理学療法士が、その臨床の中で学んだり感じたことを同じように産前産後ケアをしたいセラピストさんにシェアしていくことで、悩んでいる女性のみなさんのお力に少しでもなれたら嬉しいです。



ではさっそく…今回のテーマは「腹直筋離開」です。

一般のママにもすでに広まってきている「腹直筋離開」はウィメンズヘルスの勉強をしてたら必ず出会う言葉です。

腹直筋離開とはどんな状態なのか?は評価方法と合わせてだいぶ知られてきていますが、理学療法として最も大事なのは

・なぜ起こるの?
・離開してるとどうなるの?
・離開の人にはどうしてあげたらいいの?

という臨床的な部分です。

一般の方からのご質問やご相談もとても多くなってきている症状でもあるので

● 実際にどんなご質問や相談が多いのか
● 評価は間隔を見るだけでいい?
● どんな風に考えて介入をしているのか?

という部分を今回はお伝えしていきます。
私が普段臨床で行っている全てを盛り込んでいるので、結構なボリュームになっていますが、実際に悩まれている女性は本当にたくさんいらっしゃるので、お役に立てていただけたらと思います。


■一般の方から多いご質問・ご相談は?

ここ最近は、ネットや動画サイトで調べてみえたりするほどママたちの中でも知られてきている言葉です。

特にチェックの方法は動画などでもよく紹介されているので、みなさんご自身でチェックされて不安になってケアに来られるケースも多いです。

実際に多いご質問・ご相談としては

・私もあるような気がするんですが大丈夫ですか?
・もうこれは閉じないんですか?
・閉じないとどうなるんですか?
・骨盤が戻らないということですか?
・これがあるから尿もれがあるんですか?
・お腹をどうしても戻したいです。どうすればいいですか?
・もう妊娠は嫌だと思ってしまって…

これらの一般のママたちの言葉から
「つまりどういうことか?」と整理してみると、

・美容的に気になる
・離開があることがどういうことなのかわからず不安

ということかなと考えられそうです。

離開のことは世の中に広まっているけど、「その影響が何に及ぶのか?」
という具体的な部分がわからなくて、結局ただ不安になっただけになってしまっているのかもしれません。

妊産婦さんの中には、「腹直筋離開=ダメなもの」と考えている方もいたりするので、体の専門家としてはその方の何に影響を及ぼしているのか?丁寧に説明しながら介入をしていくのが大事かと思っています。

■腹直筋離開とは?

腹直筋離開とは
妊娠による子宮増大と、ホルモンによって
腹直筋の真ん中にある「白線」が伸張された状態のこと
を言います。

成長する胎児を受け入れるために、女性の体にはホルモンや筋骨格系の適応を含む多くの調整が行われます。最も一般的な適応のひとつは、左右の腹直筋(RA)の間の(IRD)が、成長する胎児と子宮を収容するためにサイズアップすることです。出産後、腹壁が元の状態に戻る女性もいれば、そうでない女性もいるようです。

Laura Anne Werner,Marcy Dayan.
Diastasis Recti Abdominis-diagnosis, Risk Factors, Effect on Musculoskeletal Function, Framework for Treatment and Implications for the Pelvic Floor. 
Current Women’s Health Reviews, 2019, 15, 86-101

「真ん中に穴があいた状態ですよ!」とか「お腹の筋肉が左右に避けちゃってる状態ですよ!」とか、言い方によってはすごく不安を煽ってしまうんですが、引用させていただいた文献にもある通り腹直筋離開は妊娠への「適応」なので、人によっては妊娠継続のために必要な変化でもある!と考えると、妊産婦さんへの声掛けも不安を煽るようなものにならずに済むんじゃないかな〜って思ったりします。

産前産後ってただでさえ不安が多い時期なので、無駄に不安を煽ることはしたくないですよね…

○解剖学的に見る

解剖学的には、白線の部分には腹直筋以外の内腹斜筋・外腹斜筋・腹横筋も
連続性を持っているため、それらの筋力自体が発揮しにくい状態になる方が多いなという印象はあります。

腹筋群自体の役割として、

・姿勢保持
・腰椎、骨盤帯の安定性
・下部胸郭の動き(呼吸)
・体幹の動き
・腹部内臓の支持

などがあるため、機能を損なうことでこれらに影響もあると考えられます。

○腹腔内圧について

腹筋群の機能や腹直筋離開のことを理解するためには、インナーユニットや腹腔内圧を理解していないとイメージが湧きにくいかと思うので、少し説明しておきたいと思います。

黒:インナーユニットを構成しているもの

インナーユニットは、上が横隔膜・横は腹横筋・下は骨盤底筋・後ろは腰椎(多裂筋)で構成されていると紹介されていることが多いです。それぞれがしっかり役割を果たすことで、腹腔内の圧を保っています。

このうちのどこが弱くてもこの圧はうまく保つことができないんですよね。
骨盤底筋が弱ければ下に圧は逃げるし、腹部が弱ければ前方に圧が逃げるのはイメージできるかと思います。

腹部が脆弱な場合

しかし、臨床的によく介入するのは、意外と腰椎だったりします

腹横筋は、胸腰筋膜を介して腰椎に連続性を持っているため、腰椎の生理的な前弯がきちんと保持できていないと、実はちゃんと腹横筋を働かせることが難しいっていうこともあるんですよね。

この辺りは後半のアプローチの部分でご紹介します。


○どんな症状がある?

ということで、腹直筋離開があるから何か症状が出るというよりも、腹筋群の機能低下が起こることで出てくる症状があると捉えてもらえると考えやすいかと思います。例えば…

・腹横筋と骨盤底筋の機能低下による尿もれや仙腸関節痛
・姿勢保持困難による腰背部痛
・呼吸のしづらさ
・抗重力位での内臓の下垂感

などなどです。
白線の伸張に伴い腹筋群がうまく機能しないため、腹圧コントロールがしにくくなっていることなどから、これらの症状が絡み合っていることも多いという印象は強いです。

○実際の状態は?

腹直筋の内側縁が3cm(3横指)以上の方を見させていただくことも多いです。カールアップなど、腹圧をかける動作を行うと、

●白線の部分がボコッと膨隆するタイプ(凸)の方
●白線の部分が陥没するタイプ(凹)の方

がいらっしゃいます。

凸の場合は写真で見るとこんな感じです。

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