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不動産を購入したいという弟へプロのアドバイス

普段は仕事と3人の男の子の子育てで忙しい弟から連絡がありました。

「今住んでるシカゴで家を買おうと思うけど、どう思う?」
周りの人には不動産価格も高いし、様子見たらって言われたようです。

この頃はコロナで東京でも外出自粛がでていた時期でアメリカではニューヨークで多くの死者がでている最中の頃だったように記憶しています。

私の弟についてちょっとご紹介すると、弟は私より2歳年下です。小さいときから自立心が強く、幼稚園児の頃には既にサッカーでブラジルに留学するやら、学者になって海外にいくと宣言するくらい親離れが早い男の子でした。小さいときから母親には「女の子には優しくせないかん!」と言われて育ったので、家事も子育てもほぼ全てをこなすナイスガイです。おまけに体力は筋トレのおかげでお化け級なので、子どもと全力で遊んだ後、勉強する時間も確保するような人物です。

15歳から一人でハワイに留学していましたが、彼が20歳のとき、父親の経営する会社が倒産してしまいました。卒業までの半年間はアルバイトをしたり、学校のジムで働かせてもらったりして、自力でワシントン大学を卒業しました。あの頃、私も自分のこと、親のことで頭がいっぱいで弟の大学卒業のことなんて頭から抜けてしまっていました。大切な弟なのに、肝心なときには助けてあげれなかったという思いが今でもあります。

そんな弟からの不動産の購入の相談だったのですが、彼の中での答えはすでに決まっていて、あとは背中を押してほしいだけという状態でした。

もちろん、時期的なこともあり、もう一度よく考えてみたら?とありきたりなアドバイスはしてみたものの、小さいながらも東京で不動産会社を経営している私としては、顧客と同様に全力で向き合わなければいけない。ということで、お客様にもいつも聞いている「現在の不満」をじっくりヒアリングすることにしました。

えのかな:今の賃貸物件の暮らしは何が不満なの?

弟:今の家は家賃が25万円を超えているから勿体ないと思う。しかも、周りに良い学校もないし、子供を安全に遊ばせられない。

家賃とローンの支払いを比べるのはそもそもナンセンスなのですが、家賃として25万円を過去10年払ってきたことは「払える金額である」実績にもなるので、参考数値にはなります。そして、ローンの支払いが同等または少ない場合は月々のキャッシュフローには問題がないことがわかります。

また、将来的に価格が上がる見込みがある場合、売却益が見込めるのが、不動産所有のおいしい点です。この可能性があるエリアであれば、購入を考えるのは良いと思うと伝えました。

次に子どもたちの住環境について。
子供が3人いるファミリーにとって、子供の教育環境は非常に大切なことです。特にアメリカでは「住むエリア」選びは大切で子供の安全を確保するのは最重要なことでもあります。

さらにいつもお客様にも聞いている質問をぶつけてみました。

えのかな:仕事は転勤とかないの?もし、同じような物件(広さ・築年数・エリアが似ている)を借りたらいくらくらいする?ちょっと古い中古とかはいくらで販売されている?
弟:転勤は正直分からない。あるかもしれない。同じコミュニティ内では28万円くらいで貸し出している。今より10年くらい古い物件もあるけど、価格は500万円も変わらず、現オーナーが離婚するから、価格交渉もできるみたい。

補足すると去年、転職してシアトルからシカゴに引っ越ししました。コロナの最中、同期の数名はリモートワークのまま、クビになった人もいるようです。日本と比べると雇用の保障はないものの、特定の業界である程度の実績を積んでいるので、転職になっても同等の給与は得られるようです。

もし、買おうとしている物件の周辺に築年数が古い物件で安いものがある場合は気をつけた方がいい。古くなると一気に価格が落ちる心配があるからです。アメリカでは新築物件はめったにお目にかかれないですが、日本の場合、新築価格と中古価格を比べるのは必須なプロセスと言えます。中古物件の価格があまりにも新築とかけ離れている場合、流動性の低い場所といえるので、再販は価格を落として、ゆっくり販売していくことを覚悟しなければなりません。

何より心配なのは、仕事をクビになったとき。アメリカは日本の国土の25倍もあります。もし、仮にニューヨークで次の仕事を見つけたとしたら、シカゴとニューヨークの距離は約1200キロ。車で14時間〜16時間もかかります。とてもじゃないけど通える距離ではない。

そうなると①売るか、②貸すかの2択になります。しかも、一度買ってしまうとそう簡単には売れないし、売るには体力もお金も時間もいる。そうなると、取りあえず貸し出した場合、ローン代を支払った後、プラスのキャッシュフローがないと税金分は足がでてしまったり、補修するときにまとまったお金が必要になります。

またアメリカでは貸し出す場合、投資ローンに変更してさらにローンの支払いが増えることになります。日本ではそもそも貸出NGとなっているので、貸し出す場合には注意が必要です。

そして、自分が良い!と思える物件はなかなか出てこないので、少しでも安く買えるとそれだけで助かります。今回のように相手に「急いで売る理由」があるときは価格交渉できる余地があると思います。

そして、またまたお客様にもいつも聞いている「貯蓄」について質問してみました。

えのかな:大学院も行ってたけど、奨学金とかの支払は大丈夫?貯金はしてる?
弟:普通にしてるよ!貯金趣味だし笑 毎月給料の20%は貯金してる。

弟は非常に堅実です(そう言えば)。姉二人と違って、コツコツ貯めるタイプで一切浪費しない性格なので、貯金できないわたしがとやかく言う立場でもなく、ローンの支払いに無理もなく、まとまったお金もあるので、いざ自然災害で補修が必要になったりしても対処できる財源はあるということが分かりました。

もし、万が一、アメリカの不動産市場が不景気になったとしても、売却金額 – ローンの残金の差額を貯金で補えるなら、賃貸より安く借りれていたし、その差額分は賃料の未納金と思って払えばいい。何よりその期間は賃貸では味わえない「マイホーム感」を満喫できたのであれば、追い金があったとしてもしょうがないと割り切れると思うので、ここまで来るともう言うこともなくなってきます。

えのかな:それで、マー坊(あだ名)は一体どうしたい?
弟:やっぱり家は若いうちに一回は買いたいし、奥さんもかなり欲しがってる。

そうなんです。そうなんです。

このマイホームを買いたいという気持ち自体が不動産を購入する動機でもあり、魔物でもあったりする。私はこれを「買いたい買いたい病」と名付けています。私自身、不動産の「買いたい買いたい病」の重傷患者だからすごく分かるのです。

夫婦の場合、どちらか一方が購入に乗り気でない場合、なかなか話が進まないケースが多いです。そもそも、購入の動機がなかったり、費用面で何か問題があるのかもしれない。そんな時はじっくり家族会議をすることをお勧めしています。

私からの弟に対する質問は以上でした。

買った方がいいとも、買わない方がいいとも私の口からは言いませんでした。

人生は一回きり。

少しでも購入したいと思ったなら、購入することを一度は現実的に考えてみるのがいいと思います。でないと後々後悔してしまいます。

家を買うことは大きな決断ですが、大きな賭とは違います。買う前に知るべきことを知って、納得して買うものだと思います。決して他人から背中を押されて、即されて買うものではなく、自分で決断して欲しいと思います。

ましてや初めて会う不動産会社の担当者に「今が買い時です」と言われて、とりあえずサインしてしまうのは違うと思うのです。

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その後

弟は次の日に契約書にサインしたようです。
2024年6月現在、不動産価格は上がっていて、売却益(売ればの話ですが)は約2500万円のようです。
あのとき、購入していて良かったと言っていました。
男の子3人の5人家族なので、大きい家でいっぱい走り回って、すくすく成長していることと思います。
近々弟の家にも遊びに行きたいと思っています。

人生は一度きり。

不動産を買いたいと思ったら、一度真剣に検討してみるのが良いと思います。
過去を振り返り、あのとき買っておけば…とならないためにもしっかり検討した上で賃貸でいくもよし、購入するもよしの納得できる判断をしてもらえると嬉しいです。

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