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ヤマシタトモコ作品の不思議

ヤマシタトモコ「違国日記」の感想を見かけたから私も吐き出したくなって書きます。
ヤマシタトモコ作品は「さんかく窓の外側は夜」と「違国日記」を全巻、データで買ったのを持ってる。あと昔のHERという短編集は紙で持ってた。

「さんかく窓の外側は夜」について
私はとても狭い範囲のホラーマンガ好き。狭い範囲の、というのは、ホラー作品全般が好きなのではなくて、本当に怖い背筋をぞくぞくさせてくれるホラー漫画しか好きではないという意味です。
自分の許容範囲が極小のため、残念ながら世の中の小説や映画含めても、ほんとに怖いホラー、さらに怖い中でも大好きな作品ってのにちょっとしか出会えてない。

それで、これは…怖い!面白い!と思った1つがヤマシタトモコのさんかく窓の外側は夜、だった。だから買ったし、続きが出るたびに楽しみにしてたし、新刊読むたびにぞくぞくしたし、最終回を楽しみにしてた。ところが。私の期待してたぞくぞく加減は最終回に向かうにつれて尻すぼみに萎んだまま、物語はたぶん「愛があれば救われる」的なテーマに収束して唐突に終わってしまった。。。
喪失感半端なかったです。もっと怖いものあると思ったのに。もっと嫌なものたくさん見れると思ってたのに。もっともっと絶望があって、その先が救いみたいなそういうものが見れると思ってたのに。
でも作品の評価は好評で、映画化もされた。私はこの作品を人間の嫌な部分、思念的なものの表現の怖さがたっぷり味わえるホラー作品だと思ってたけど、もしかしたら最初から最後まで人間同士のハートフルドラマというジャンルだったのかもしれない。

「違国日記」について
気を取り直して、その後くらいに連載されてた違国日記を読んでみた。面白かった。ホラーではない、ヒューマンドラマというのは読んですぐわかる。人見知りしないが孤児になってしまった思春期の姪と、人付き合い苦手系の少女小説家との同居生活。違う人間が寄り添って生きていくヒリヒリした感じ。セリフやモノローグは心に染みるし、泣けると思った。本当に純粋に楽しんでたんです、途中まで。

で、これもどこからだろう、なんだかどうでも良くなってきた。私が読んだ感想文は「お父さんがでてきてからがつまらない」と書いてあったんだけど、それもそうかも知れない。
今思い返す自分のもやもやポイントは、お父さんてどんな人間だった?というのを思春期の孤児が調べる描写のところかな。高校生の調査力だから、たいした人間像は出てこない。それは良い。でもその孤児視点以外の事実は出てこないまま、そのテーマは終わる。えっ掘り下げないの?!

もうひとつ、人並みに社会人生活が出来ない自覚のある少女小説家の、厳しく「人並み」を強いてくる故・姉が一女を設けた家庭が、しかしじつは事実婚だったというのがわかる。その事実婚の描写もリアリティが見えない。扶養とか保険とか子どもの名字とかどうなってんの、子供は事実婚てことは知らないのか、隠せるもんなのか、または知っててどう思ってるのか?とか、描いてほしかった。最初の方でそういった謎を提示しておいて、これから明らかになってくんだろうな。。。と思わせて、リアリティ描写もなければ謎解きもない。それが何でだったのか、どういうことだったのか誰も何も理由も示せず、解決もせずに終わっちゃう。

さらに言うと、主人公の人付き合い苦手系の少女小説家も、全編通して読むとなんだかんだで友達は多いし、しかもしょっちゅう人とご飯食べてたり悩み相談できてたりするし、独りが好きという描写はあまり出てこず、なんというか「常に正しい姉に苦悩する出来損ないの人間」像とは矛盾してるみたいに見える。
結局、本人的には家族との不和、真っ当に生きられないという重い命題を背負っている、と認知してるけど実は他人から見たら被害妄想ちょい高め?の認知の歪みで、客観的には仕事は成功してるし性別問わず良い友人知人に恵まれプライベートも充実していて、思春期の孤児を引き取っても親とは違う誠実な対応が出来てしまう、できた人間のスーパー独身女性。そんな人の被害者意識には白けてしまうというか。

だからこそ故・姉や故・姉の内縁の夫(姪の父親)がなぜ事実婚だったのか、その事実はスーパー独身女性の悩みや痛みにどう影響したのか、とかをわかりやすく知りたかった。

でもそのへんは出てこないまま。だからこれも、最終2巻あたりはもうこれ面白くないんだろうなと思いながら買った。買って読んだ。壮大なポエムを。

いや、姪の友人のえみりの話とか感動したシーンもたくさんあるし、ところどころぎゅっと心を掴まれるし良い作品だとは思うのですが。。。何かこう、「さんかく窓の外側は夜」とおなじく消化不良のまま白けたまま、壮大なポエムを読まされたような気分で終わってしまう。もしかしたら自分の読み込みが足りてないだけかもしれないけど。
誰かすごい漫画読みの人に、この作者の作品を解説してもらいたい。なぜこう、最初の方は刺さったと思った作品の棘が終盤にはいつもシュワシュワ抜けていくのか、言語化してもらいたい。(他力本願)


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