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透明の少女

 ショーウィンドウの前を通る。
 光を通す私の体は、その実体を映さない。そのため、新作の服を囲む透明なガラスは私を認識しない。
「お待たせ! 待った?」
 振り返ると、男の人が小走りで近づいてくる。特に急いでいる風でもなく、詫びれている風で困ったような顔をしながら。
「もぉ〜! すんごい待った! 今日は奢ってよ?」
 私の近くにいた女の人が嬉しそうに話す。何が嬉しいのかは分からないが。そんなことは私にとっては些末なこと。
「当たり前じゃん。何が良い?」

 カップルは早速何処かへと歩いていく。

 透明な私はこの世界からは見向きもされない。
 
 ただ……。認識されない存在というのも、悪くない。

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