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虹の少女

「もぉ〜! すんごい待った! 今日は奢ってよ?」
 最高の笑顔と愛らしさを持つ声を使って相手に強請る。
 女は可愛ければ男を落とすなんて簡単。すぐに食いついて財布の紐なんてゆるゆる。案の定、相手はすぐに了承した。

「え。別れる……?」
 意味わからない。奢ってもらったし、今日もデートしてくれたし、今までのは全部嘘ってこと?
「つか、コウちゃんって確かに可愛いけど、ただそれだけっていうか。ううーん……、もっとわかりやすく言うと、彼女と言うより妹? なんかそれじゃない感?」
 呆然とする。
 今まで優しくしてくれたし、笑顔も優しくてお金も貢いでくれた目の前の男が、突然毒舌を振り撒いている。
 突然のことで返事もできずにいる。
 私も、流石に相手にお金を貢がせてばかりいると愛想を尽かされる、というのは分かりきっていた。ただ、それが現実に起こると何を言えば良いのかわからなくなる。
 怒れば良い? 突然だし、君の勝手でしょ! って?
 泣けば良い? 別れたくないって、私は苦しいんだって?
 自業自得なのに、まだ我儘貫いて付き合うのは違う気がする。
 でもやっぱりどこか傷ついてる。男は金づるなんて思ってたけど、傷つくってことはこの男のことが好きなんだ。
「ずっと黙ってるけど、コウちゃんはどうなの? 俺の意見ばかりだと本当に別れるよ」
「ごめんね。うん……。私は……本当に最低だね……。本当は別れたくない。別れたくないけど……。でも私たちのために別れた方がいいのかなって……」
 声が震える。馬鹿みたいだ。男を下に見てた私の天罰。最後の最後になって自分の気持ちに気づくなんて……。
「……なぁんてな」
「……え?」
「何呆けてんだよ、嘘に決まってるだろ? コウちゃんと別れるなんて天地ひっくり返ってもありえないし」
「え? え?」
「ごめんな、こうちゃんの気持ちがわからなくてこういう手段だったら分かるかなって。好きか嫌いかなんて言葉では何とでも言えるからさ。……まさか泣くまでなんて思わなくて」
 どこまでも酷い男だ。でも、嘘だとわかった瞬間に、今まで堰き止めていた涙が溢れ出す。
「女を泣かせる男は許せねえから、やっぱりまた奢る。今度はいいお店にしよう」
 目の前の男は少し困ったように、けれど優しく私の涙を拭ってくれる。
 
 その涙の隙間から見えた空っぽの瞳は、私の背筋を凍らせた。


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