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塩煎り派と湯煮派 イワシの単純で旨い食べ方

 前回はイワシの究極の刺身を取り上げたが、日常では茹でて食べるのがポピュラーだった。金沢でも港町以外では焼くのが好まれる。七輪でジュ―ッと香ばしく焼き上げ酢醤油で頂くという具合だ。もちろん金石でもイワシといったら塩焼きだという家はたくさんあるが、金沢市街と比べると明らかに茹でるのが優勢なのである。

 なぜ金沢の他地域に比べ茹で派が多く塩焼き派が少ないのか?「金石によくあるウナギの寝床のような細長い家で、七輪で焼こうものなら煙で大変なことになる。」「家事に忙しいがにいちいち手間かけて焼いとられん。」「茹でイワシはそのままの味がして旨いがとれたばかりの新鮮なものじゃなければ生臭い。多少なれても(鮮度が落ちても)焼いたら食べられる。」などの説をお聞きした。住宅事情や家々の主婦の事情、素材の状態などの要因が複合してのものであろう。

 話は変わるが、春のこの時期にはイワシは米の代わりにもなった。戦争中はヤミ米ならぬヤミイワシが横行していたらしい。それでみんな命をつないでいた。また、豊漁のときは大羽の茹でたてを米代わりに十匹以上一人でたべること珍しくなく「イワシがとれると米屋がヒマになる。」などとも言われた。

 各家庭にはイワシを茹でるための大鍋があって、そこにイワシをぶちこむ。昔の大羽イワシは「ブリとまではいかんが、今のとは問題にならんぐらい大きくて立派やった。」とみんな口をそろえる。さらに産卵期にあたるこの時期はお腹が卵でパンパンに張っていて「たれこ」「たればら」などと呼ばれ大きさは普通の倍ぐらいあったという。それらを濃いめの塩水を沸かしイワシを投入する。茹でている途中で腹が弾けるものもあり、真子がふわっーっと湯の中に舞う。さっと茹であげてそのまま酢醤油をまわしかけいただくのが最高のご馳走だ。これが湯煮とか塩茹でとかいわれるものである。

 大鍋ではなく魚用の平べったい鍋もよく使う。調理法は大鍋のときと一緒であるが、この場合は茹でてお湯もそのままに鍋ごと食卓に供する。アツアツなままイワシがたくさん食べられる。みんなで食べてもいいし、手元に鍋を引き寄せてご飯代わりに食べる人もいた。

 茹であがったらゆで汁を捨てて、鍋を振って水気を飛ばして物が塩煎りである。鍋を振りすぎると皮がはがれるのでやさしく短時間で行う。水分が飛びやすい平鍋が適している。大根おろしや生姜を乗せ酢醤油でサッパリ仕上げると何匹でもいける。

 塩煎りにしても湯煮にしても単純な料理であるが、イワシの味をそのまま楽しめる調理法である。シンプルであるがゆえに素材を選ぶ。新鮮なものが手に入ったら是非試してほしい。

作り方
イワシの湯煮(塩茹で)
①イワシは新鮮なものを用意する。本文では大羽イワシ紹介したが、中羽を好む人もいる。もちろん真子がなくてもよい。
②頭と内臓を取ってきれいに洗う。
③濃い目の塩水(海水ぐらいという人もいる)を沸かしイワシを入れる。
④2~3分煮て火が通ったら完成。
⑤酢醤油でいただく。お好みで大根や生姜をおろし添える。

イワシの塩煎り
①~④までは湯煮と一緒。
⑤ゆで汁を捨てて弱火でやさしく鍋を振って煎り付ける。さっと水分を飛ばして完成。
⑥酢醤油でいただく。お好みで大根や生姜をおろし添える。


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