先手37銀急戦対後手雁木:気になる局面

突然ですが雁木のお時間です。

先手37銀急戦対後手雁木の気になった局面について適当に書いていきます。
自分用のメモみたいなものですし、私の棋力がアマ低段で正確な局面判断はできませんので、ツッコミを入れつつご笑覧ください。


基本図

今回の基本図

今回の基本図はこちら。先手の77角88銀型は37銀急戦で使われる構えです。後手が穏便に組んだらこの基本図に近い図になるでしょう。

基本図から▲35歩△同歩▲26銀の仕掛け:飛車で35を交換

途中図1: 雁木の必修手筋。

基本図から ▲35歩△同歩▲26銀△34銀▲38飛に△43金右とした局面。34銀~43金右が雁木の必修手筋。

35で銀交換して下の結果図に

結果図1。先手が避けてるっぽい図

 結果図1は攻め駒の銀は捌けているものの後手陣もしっかりしている。どちらを持ってもやれそうな局面でこれからの将棋という印象。

プロ的にはいい勝負では不満ということでこの図は先手が避けているようです。もちろん先手が悪いわけではないので、やりたい手がある人はこの図にするのかなという印象。少ないながら最近でも類型が出ています(高田-藤本:72期王座戦)。

基本図から▲35歩△同歩▲26銀の仕掛け:角で35を交換

結果図1は先手が悪いわけではないがもっと良さを求めたい。ということで

途中図2. 角で35を交換する構想

68角~56歩と角で銀交換をするのが先手の工夫。後手の手は広そうですが73銀としてみる。以下35で交換して下の結果図に。

結果図2:後手が避けてるっぽい図

 先手はこのあと2筋で角交換もできそうです。先手の飛車は2筋のほうが位置がよく、角銀を手持ちにできると不満がなさそうです。角を手持ちにされると、後手は22歩同歩31角・61角・71角の筋を気にしながら自陣をまとめないといけないので苦労が多そうです。アマレベルでは一局でしょうが、個人的には後手を持って自信はない局面です。

 プロではこの図は後手が避けているようです。先手の飛車角が捌きやすい変化になるとそのまま先手が勝ち切っている印象です。

途中図2からの後手の変化

先手の駒を捌かせまいと途中図で後手が36歩と変化する

結果図3−1。

先手が38飛~36飛車と歩を回収した後の局面。

後手の54歩〜42角に77銀がなるほどと思った手。先手から駒をぶつける権利を残したまま77銀から囲いを発展させる構想。先手も厚みのある囲いにして、先後の陣形差をなくせば駒をぶつける権利を持つ先手が指しやすいといった理屈でしょう。46銀型だと後手からの45歩の決戦を気にしないといけないのですが、26銀68角の配置だと後手から催促するような手がありません。

古賀-野月:82期順位戦という後手雁木使い同士の対局でこの図が出ています。この将棋では先手が矢倉に組んでから駒をぶつけていき勝利。

 後手が意地でも銀を捌かせないようにすると54歩42角の代わりに45歩44金として次の図に

結果図3−2

最近の類型は羽生-屋敷:82期順位戦や千田-澤田:37期竜王戦など。先手が攻め切れるかもわかりませんが、後手を持ちたいかと言われると微妙です。腕力と受けに自信がある方は後手を持っても指せるのかもしれません。

結果図3-1や3-2を見て皆さんはどう思われるでしょうか?

この戦型の先手37銀型からの▲35歩△同歩▲26銀の仕掛けは後手の34銀〜43金右という受けがありますのでいきなり攻め切るような展開にはなりにくいです。この進行では先手はいきなり攻めつぶすというより、主導権を握ったまま模様をよくしているイメージです。+1000の局面を無理に目指すというより+100を確実に維持する方針のようで(値は適当)、微差を優勢に結びつけることができるプロならではの指し方と言えるかもしれません。

良い条件で銀交換できても先手の攻め駒は飛角銀の3枚ですので、攻めを繋げるのは技術が必要です(当たり前ですけどプロは攻めをつなげるのがうまい)。 対雁木で手厚く攻めたい方は腰掛け銀もいいかもしれません。

後手の工夫 

後手早繰り銀:攻め足を合わせる

後手は早繰り銀で攻め合うのも考えられますが、ゆっくり雁木に組んでから銀を繰り出しても間に合いません。先手と攻め足の速さを合わせるためには工夫が必要です。

こちらは豊島-大橋:94期棋聖戦の局面より。

先手が32飛車とした図

 図で先手32飛と寄った局面から △74歩▲34歩△42角▲35銀△75歩と進行。
1歩損しながら3筋を取り込ませるという手順ですが、以下44銀には76歩が効くという意味です(43銀成には77歩成と王手で角が取れる)。

戻って図の局面から後手が△35歩として▲同銀となると上記の手順と比べて先手の攻めが1手早く、75歩~76歩が間に合いません。つまり後手は1歩損と引き換えに1手早く反撃するという手順になります。豊島大橋戦とは手順は違いますが和俊先生の新型雁木試論にも同じ構想が紹介されています(p225あたり)。

全く別の局面ですが、服部-都成:95期棋聖戦より 

後手は囲いを省略して早繰り銀

後手は32金も52金も省略して早繰り銀で攻め合う方針。先手と攻め足の速度を合わせるにはこれぐらいやらないと駄目ということなんでしょう。

このように後手からの抵抗策があるためか、先手は68玉49金型(左辺は77角88銀)からいきなり35歩としている実戦例も多いです。攻め合う形になると1手の差が大きく、早く駒をぶつけることにより後手からの色々な変化を防ぐ意味があるのでしょう。

雛雁木:先手の仕掛け方を限定?

最近気になっている形。次のような局面で岡部-井田:82期順位戦から

雁木ではなくなった。その1

 後手は43銀~32金を省略しておりもはや雁木ではなくなった。形としては美濃ですがこの32銀型を雛雁木と名付けたのはAJI姉さん

図から先手が何を指すかは悩ましいかもしれない。▲35歩△同歩▲26銀には△45歩でどうか。角交換すると後手から86歩同歩88歩~55角や64角が狙い。また、 78玉には後手は73銀~64銀とやってきそう。これは43銀32金の2手を後回しにしたのが得になりそうです。後手の73銀の含みがあるうちは先手は68玉型を維持して78金の含みも残したほうがいいかもしれません。

岡部井田戦では図から▲46銀△73桂▲78玉に△43銀と進行。73桂に78玉は角の引き場所を作りつつ後手からの42角~86歩同歩同角のラインを避ける手で自然でしょう。最後の43銀の局面がどうなっているか。

手を進めると本記事の最初の基本図から先手が46銀とした局面と合流しそうですが、後手は手順を尽くすことで基本図からの35歩同歩26銀の仕掛けを防いだともいえます。もちろん後手が良くなっているわけではないですが、駒組みを工夫することにより先手からの仕掛け方を限定したといってもいいかもしれません。

類型の真田-古賀:82期順位戦では先手の▲26銀に△43金となり次の図に。

雁木ではなくなった。その2

先手は26銀と仕掛け方を決めますが、後手の43金がなるほどの手。
32銀型では棒銀対策の54歩〜42角〜64角は使えません。43に金を上がったのは先手からの35歩を手抜けるようにした意味でしょう。35歩の後の▲34歩△同金▲38飛には△43銀で後手は結果図1のような3筋で金銀交換する形に持ち込めます。

後手43銀型の場合の▲34歩△同銀▲38飛に△43金は先手46銀型にありますが、26銀型だと最後の△43金に▲46歩で後手まずそうです(参考図)。34が金だと最後の▲46歩に△45歩ということでしょう。

参考図。

 岡部井田戦でも43銀に替えて43金はありそうで、43金〜42角〜64角とできれば先手からの攻めを防ぐことができそうです。手順として成立しているかは分かりませんが。

おわりに

プロ将棋で見かけた先手37銀急戦対後手雁木の局面を取り上げてつらつら書きました。後手は手を変え品を変え抵抗しているものの、全体としては先手がかなり勝ち越していると思います。

プロの結論やソフトの評価値も大事だと思いますが、指しこなすためには自分なりに局面を判断するのが大事だと思っているのでつらつら書きました。私のように後手雁木を指す方は先手からの仕掛けを避けようがありませんので、どういう方針で・どの形に持ち込んで戦うのかをあらかじめ準備しておきましょう。みなさまにもよき雁木LIFEがあらんことを