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#1『Monument Valley』から学ぶゲームデザインの引き出し(1)「最小限のチュートリアル」

『Monument Valley』(モニュメントバレー)は「錯視トリック」が特徴的なスマートフォン用パズルゲームです。

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『Monument Valley』 (c) ustwo games

 本作は、ステージ中の通路をタップすることで主人公の少女を歩かせてゴールを目指すのが目的です。

ゲームシステムとして、錯視で有名な「エッシャーのだまし絵」のようなギミックが取り入れられているのが最大の特徴でしょう。
(PSP/PS3で発売されていた『無限回廊』シリーズをご存知の方はイメージが伝わるかと思います)

通路の途中には「回転させる床」や「スライドで動かせる床」などの数々のギミックがあるのですが、その操作により、錯視によって本来繋がるはずのない通路同士が繋がり、思わぬルートでステージを進んでいくことができる、不思議なパズルとなっています。

また、どこか退廃的で空気感のある雰囲気に溢れたビジュアルデザインや、ミニマルなUIデザイン、操作音のサウンドデザインも本作の魅力と言えるでしょう。

最小限のチュートリアル

さて、今回は「最小限のチュートリアル」について考えてみます。

「チュートリアル」とは、ゲームの遊び方をプレイヤーに説明する導入部分・練習部分のことですが、本作ではチュートリアルというほどの説明もなく、とてもシンプルな1ステージが最初に用意されているのみです。

またその内容も、「タップして歩けます」「ギミックを操作できます」の2点のみに絞られており、とてもシンプルです。

本作では余計なチュートリアル文面を用意していません。テキストによる過剰な操作説明をするのは、ゲームの雰囲気を損ねるという判断なのでしょう。

過剰なチュートリアルの例

例えば、もっとチュートリアルを親切にしようと思ったときに、このステージ1で次のようなチュートリアル文面を考えることはできます。

「これがゲームの世界です」
「これがあなたの操作する主人公です」
「歩ける通路はこの部分です」
「マップのここまでたどり着けばゴールです」
「通路から落ちることはありませんから安心してください」
「まずはこのギミックを90度回転させてみましょう」
「ほら、錯視によって通路が繋がりましたね!」
「床に乗ったら、もう一度ギミックを回転させてみましょう」
「ゴールへの道が繋がりましたね!」
「さあ、あと一息です」
「これを繰り返してこの先のステージも進んでいきましょう」
「次のステージを選択にするにはここをタップ」

どうでしょう? こんなポップアップメッセージが次々と表示されたら、懇切丁寧ではありますが、少々野暮ったく、煩わしく感じないでしょうか。

最小限のチュートリアルの良い点

最小限のチュートリアルの良い点として、

・ゲームの雰囲気に没入することを妨げていないこと。
・長い文章を読むという負荷をプレイヤーに与えていないこと。
・「錯視ギミックの仕組み」にプレイヤーが気づいたときの感動を横取りしていないこと。
・プレイヤー自身がゲームの仕組みを体験によって納得すること。

などが挙げられると思いますが、少なくとも本作の場合は、非常に効果的であると感じました。

これを実現するために、ゲームオーバーがなく出来ることも限られている環境に置くことで好きなだけ操作を試行錯誤してもらうという配慮がされていますし、最初からいくつもの要素を出さずに、ステージ進行の中で順々に1つずつギミックを提示していくという配慮もされています。

また、新しいギミックが登場したときも、そもそもこのゲームはプレイヤーの行動範囲が広くはないため、未知のギミックを試行錯誤すること自体が本作のゲーム性となっているとも言えるでしょう。

(もちろん、こういったチュートリアルの作りは本作独自のものというわけではなく、よく出来たタイトルはいくつもあります。特に任天堂などはこのようなチュートリアルの作り方は上手い印象がありますね)

チュートリアルについて考えてみる

昨今のスマートフォンゲーム(特にソーシャルゲーム)では、これでもかというくらいに懇切丁寧なチュートリアルを用意することが定番となっている風潮があります。ただし、

・長いテキストを最後まで読んでいるプレイヤーはいるのだろうか?
・指示通りにタップさせるだけで、ゲームの仕組みを覚えられているか?
・プレイヤーに最初に提示するゲーム要素の量は適切だろうか?

などの振り返りは必要かもしれません。

私の体験ですが、チュートリアル通りに延々とボタンを押していったは良いものの、チュートリアルを抜けた瞬間、結局何をやっていいのか全く分からず……と感じたゲームもいくつかあります。

あなたの遊んでいるゲームや、開発しているゲームでは、どのようなチュートリアルが採用されているでしょうか。また、その量は適切だと感じるでしょうか?

説明テキストの量を今の半分にできないでしょうか。
ゲーム開始直後に説明せず、後回しにできる要素はないでしょうか。
ゲームオーバーや時間制限を外すなど、プレイヤーが試行錯誤を十分にできる環境でしょうか。

「最小限のチュートリアル」について今一度考えてみたいですね。皆さんも考えてみましょう。


本連載の趣旨については下記記事をご覧ください。

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(※本記事中のゲーム画像は、「引用」の範囲で必要最低限の範囲で利用させて頂いています)