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#32『フェアルーン』から学ぶゲームデザインの引き出し(2)「最初は敵にやられない」

本記事は遊んだゲームから、一つのアイデアに注目してゲームデザインの実例を勉強していく連載記事です。

ゲーム開発のプランナーやプログラマー、ゲーム制作を志す方、アイデアのインプットのための引き出しとしてご活用ください。

前回:#31『フェアルーン』から学ぶゲームデザインの引き出し(1)「行けない場所に何かが見えるワクワク」

今回勉強するのは、ゲーム序盤に、システムに慣れてもらうための工夫です。

ゲームの紹介

『フェアルーン』は、インディーゲームスタジオのスキップモアが制作した謎解きRPGです。

現在は『フェアルーン』『フェアルーン2』その他がセットになった『フェアルーンコレクション』が、Switch/Steamで発売されています。
(それより更に前にブラウザゲーム版や3DSもありました)

ゲーム内容は『ゼルダの伝説』(初期の2Dのやつ)をライトにしたような作りで、RPG風の2Dフィールドを探索しながら敵を倒し、様々な謎や仕掛けを解いていきます。

アクション要素はあまり強くなく、敵とのバトルは体当たりをするとレベル差のみで勝敗が決まるシンプルなルールとなっており、謎解き部分がゲームのメインといっていいでしょう。

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『フェアルーン』(©Flyhigh Works/SKIPMORE/ESQUADRA)


シンプルに割り切られたバトルシステム

『フェアルーン』は探検型のRPGで謎解きの探索部分がメインなので、バトル部分はとてもシンプルに割り切った作りになっています。

敵とのバトルは体当たりによって行われて、

自分より弱い敵:ノーダメージで倒せる。経験値も入らない。
同じくらいの敵:1ダメージ食らう。経験値が1入る。
自分より強い敵:ダメージを食らう。絶対倒せない。

のように、自分とのレベル差によって倒せる敵、倒せない敵がはっきりと決まっています。

倒せない敵相手には跳ね飛ばされてしまうため、うっかり強い敵がいる通路に突入してしまうと、そのままハメ殺されてしまうこともあります。

最初は敵にやられない

さて、本作ではそんなバトルルールに慣れてもらうための工夫があります。

それは、ゲームの序盤に「武器」を入手するまでは、敵を倒せない代わりに敵からも一切ダメージを食らわないというシステムです。

といっても、ゲームを始めて5分もしない内にすぐ「武器」は手に入るので、本当に最初だけではありますが。


また、最初は敵からダメージを食らわない理由付けとして「武器も持っていない女の子には、さすがのモンスターも攻撃してこない」という、それっぽい設定が付けられているのも面白いですね。

同じファンタジーRPGでも、ハードな世界観ではなく、ほんわかした世界というのを感じさせてくれます。

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「ドレスをきた おんなのこには こうげきを してきません。」
 / 『フェアルーン』

話が少し逸れましたが、近年の親切なゲームではまずはリスクの無い状況で自由に操作を試してもらうのはよくあるシステムです。

序盤のレベルデザイン

序盤のレベルデザイン(ゲームの地形や敵などの配置を設計すること)では、安心して操作に習熟してもらうために、ミスやゲームオーバーが発生しないように作ることが常套手段でしょう。

例えば、ジャンプ操作もおぼつかないプレイヤーにいきなり穴のある足場を渡らせるのは酷なので、落ちても大丈夫な足場でステージを設計し、そこで繰り返し慣れてもらうなどがあるでしょう。


もちろん、しょっぱなから敵に何度もやられて身をもって学習するというゲームデザインもあります。これはどちらが優れていると一概には言えず、作品のコンセプトに拠るでしょう。
(特に近年は、親切なゲームが増えている一方で、ハードコアな難易度のゲームも好まれる土壌があるように思います)

他のゲームの例

例えば、初代『スーパーマリオブラザーズ』では1-1の最初のクリボーに当たってミスになることを、身を持って体感させるゲームデザインになっています。
(敵に当たるとミスになるということそのものが「当たり前」ではなかった、という時代背景があるかもしれませんが)

逆に、近年のゲームでは『Celeste』(セレステ)は高難度のジャンプアクションゲームですが、穴に落ちたりミスしてもほんの1秒くらいでその画面の最初からやり直すことができ、ミスはするものの快適に何度もチャレンジできるデザインになっています。

2008年にXbox360用ソフトとして発売された『Braid』は、時間を巻き戻すギミックが特徴のジャンプアクションゲームで、「ゲームオーバー」の概念がなく、ミスをしても好きなところまで時間を巻き戻して何度でもやり直せるというシステムが発売当時は斬新でした。

考えてみよう

あなたの開発しているゲーム、構想しているゲームでは、序盤の難易度やミスのペナルティの重さをどういう設計にしているでしょうか。

・序盤はそもそもミスを発生させないレベルデザインにする。
(ダメージを受けない、ライフが0にならない、落ちる穴がない、etc...)
・ミスのペナルティを軽くする。
(お金が減らない、ステータスが減らないなど)
・ミスの演出を短くし、ゲーム再開までのスピードを早くする。
・オートセーブを実装し、大きく戻されることの無いようにする。

などペナルティを軽くする方法があるか考えてみましょう。

また、そのことをゲームの世界観と融合させるためにはどういう設定が考えられるでしょうか。(敵はダミーの人形であるとか、戦闘シミュレータによる模擬訓練である、など)

また一方で、これらを逆に考えて、ペナルティを重くすることでハードコアな方向での差別化や魅力が引き出せないでしょうか。

・最初から容赦なくミスをさせる設計にする。(開幕デストラップなど)
・ミスのペナルティを重くする。
(アイテムやキャラがロスト(=永遠に失われる)する)
・強制オートセーブにより、やり直しができないようにする。

考えてみましょう。

プログラマーの視点

オートセーブの話が出たので、それについて。

昔のゲームは、メモリやセーブ容量などの都合により、どこでもセーブが出来るようにするには困難が伴いました。セーブポイントや宿屋など特定の場所でしかゲームを保存・再開できないRPGはその名残でしょう。

近年のゲームはメモリや容量は潤沢に使えるようになったため、オートセーブやどこでもセーブ可能なように実装するのはさほど大変ではありません。

ただし、オートセーブを実装する際には注意点として、
・完全に詰んだ状況でオートセーブされないようにする。
(残りライフが1でどう動いてもダメージを受けてしまう、など)
・そういう局面を想定して、キリのいいところ(ダンジョンに入る前)などから再開できる手段を用意する。
・元に戻れないシナリオの重大な分岐点に入る前には、手動セーブを促す。
などに気をつける必要があります。

プレイヤーがオートセーブに頼りすぎていると、万一ハマりが発生したときに、やり直しが数時間前ということになってしまいます。

またプログラム上でオートセーブを実装するタイミングを間違えると、バトルは終わったのに重要アイテムを手に入れない状態でセーブされてしまった、などのバグが発生することがあります。

オートセーブは普段意識しない分、バグのモニターチェックも気づきにくいことが多いです。(あえてプレイを中断して再開しないと、オートセーブのバグは発見できない) くれぐれも最新の注意を払いましょう。



皆さんも一緒に色々とアイデアを考えて、より良いゲーム作りのための鍛錬を積んでいきましょう。

本記事がゲーム制作をする皆さんのインプットに役立てば幸いです。

この連載が、ゲーム開発のインプットに役立つと感じていただけたら、是非評価やシェアをよろしくお願いします。


本連載の趣旨については下記記事をご覧ください。


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