短文事例問題集の意義 ロー入試・予備試験と司法試験で求められる能力の観点から

はじめに

今回は、書評ではなく、受験生が短文事例問題集を扱う意義について考えたいと思います。
いきなり短文事例問題集といってしまいましたが、“短文事例”という概念はあくまでも相対的・主観的なものです。私はイメージとしては、学者本でいえばロープラシリーズ、予備校本でいえば伊藤塾の試験対策問題集、これぐらいの事例の長さの問題集を“短文事例問題集”と考えています。

短文事例問題集を扱う意義は、一言でいえば、“規範を使えるようにすること”にあると思います。短文事例問題集を通じて養うべき“規範を使う”能力というのは、以下のような話です。

論点を見抜く
規範を書く
規範に対してあてはめをする

①まず、規範を書いて答案を作るうえでの前提として、論点(問題の所在)を見抜かなければお話になりません。そのため、まず論点を見抜くことが必要です。
②そして、その論点について、判例や学説上承認されている立場に基づいて適切な規範を定立する必要があります(典型論点であれば、判例や学説上承認された通説があることがほとんどです)。規範が不適切だと、あてはめも不適切なものになってしまいますので、適切な規範を定立することが肝要です。
③さらに、結論をだすために、規範に対して、問題文の事情を拾ってきてあてはめをすることが必要です。
以上のような意味において、答案作成上①~③が要求されるということについては、私の意見というよりも、全員の共通認識でしょう。

各種試験との関係

ここからは、私の意見であり、しかも結構感覚的な話も混ざっています。

ロー入試・予備試験

まず、私の感覚上、予備試験やロー入試で合否を分ける基準は、論点を見抜けているか否かです。論点を網羅的に拾って、規範を立てて、事実を拾ってきてあてはめすれば、受かるという感覚です。

“網羅的に拾って、規範を立てて、事実を拾ってきてあてはめする”という点には、大きく2つの要素が欠落しています。
それは、規範を立てる際の理由付け(論証)と、事実の評価です。私は、経験上、これらをしっかり書かなくても予備試験やロー入試は合格するという感覚を持っています。なぜ論証と評価をしっかり書かなくても受かるのかというと、そもそも、多くの人がそもそも論点を見落とすから、論点を網羅的に拾うだけで、合格側にいけるからだと思います。
ただ、私も、みんなが論証を書けるような論点(イメージとしては論証集のAランク論点)については、さすがに論証を書いていましたので、「一切論証は不要」というような過激な思想は持っていないです。

「論点を拾っただけでは意味がないのでは?」と思う人も多いでしょう。確かに、それはその通りで、規範を書いてあてはめしなければ意味がありません。
しかし、論点を見落とさないということは、例えるなら、その論点の規範がフィルターのように頭に入っていて、問題文を読んでいる過程で、その規範のフィルターに引っかかるということです。そのレベル感まで規範が頭に入っていれば、おおむね支障なく規範を定立してあてはめできるでしょう。そのため、論点を見抜ける力があるのか否かというのが、結果的に合格を左右するのです。

ただ、あえて言う話でもないですが、ロー入試と予備試験ではレベルが違います。ロー入試よりも予備試験の方が広範な論点が出るということ、そして、予備試験の方が合格ラインが高いので、網羅的に論点を拾わないと受からないということです。ただ、予備試験は時間がシビアなので、各論点をじっくり論じている余裕はなく、結局、論点を拾って規範を立ててあてはめをすれば相対的に上位答案になっていきます。
当然、規範の論証や事実の評価が適切であれば、もっと上位に行く(合格可能性が高まる)ので、論証や評価も書けるだけ書いた方が良いです。そういう観点でいえば、短文事例問題集を周回する中で、規範と併せて頭に入れていけばいいので、短文事例問題集で対応可能です。評価については、どのレベルの問題文の長さのものを使うかによりますが、自分の経験上はロープラで対応可能でした。

以上より、ロー入試・予備試験合格のためには、短文事例問題集をやりこんで“規範を使う”能力を磨くのが一番早いと思います。

※なお、「短文事例問題集を周回しても、結局知ってる論点に強くなるだけで現場思考型(初見論点)は解けないのでは?」という不安を抱く方もいるかと思います。
しかし、現場思考型の問題はみんな書けないので、大きな差にはならないと思います。有名な条文についての現場思考型論点(典型論点をひねった論点)であれば、その条文の趣旨から考えて規範を定立すればいいだけです。そもそも趣旨を考えたことすらない条文について出題されたら、まず条文を探し出して条文の文言に事実をあてはめ、何となくストレートダウンにあてはめられなそうな要件があれば、何となく条文の趣旨を考えて規範を作り出しましょう。これができるだけでなんだかんだ相対的には耐えます。
初見問題を減らすべく、膨大な量のインプットをするというのは、おそらく多くの人にとっては非効率です。

司法試験

司法試験については、短文事例問題集だけだと限界があります。なぜなら、短文事例問題集では、司法試験で要求される以下の2つの能力を磨くことに限界があるからです。

1.異なる学説に基づき、それぞれの学説に対応した判断基準(規範)を立てる能力
司法試験では、学説問題(異なる学説に基づいて検討させる問題)が出題されます。短文事例問題集を周回することで、典型論点について自分が採る説を使いこなすことができたとしても、別の学説を知らないと、いわゆる学説問題は解けません。そのため、これについては、インプットをする必要があるでしょう。
ただ、これについても、あまり心配し過ぎることはないのかなと思っています。使っている論証次第の話にはなってしまいますが、皆さんは、「確かに~、しかし~」のような論証を見たことがないでしょうか。このパターンは、「確かに」部分で他の説を批判し、「しかし」部分で自説を積極的に理由付けするというものが多いです。そのため、論証を丁寧に抑えることで、学説問題が出題されても立ち向かう余地があります。そして、学説問題が出るのは、有名論点についてなので(というか、マイナー論点で学説対立の問題なんか出てもほとんど誰も解けない)、論証を丁寧におさえている場合が多く、過度に心配しすぎることはないと思います。

2.多くの事実を適切に評価する能力
司法試験は、予備試験やロー入試よりも圧倒的に問題文が長いので、論点に気が付きやすいですし、民訴のようにがっつり答案構成を誘導してくる科目もあり、論点に気が付くか否かという点の重要性が、予備試験やロー入試と比べて相対的に低下しています。そのため、多く用意されている事実をどう評価するかで差がつく危険性が大きいです。これは、短文事例問題集では身につきにくい能力にはなります。そのため、司法試験の過去問を使って長文事例問題に慣れることが重要です。

おわりに

短文事例問題集を周回することが、ロー入試・予備試験にとっては非常に重要です。そして、ロー入試・予備試験の延長線上にある司法試験にとっても、同様に重要性が認められます。
本noteが皆さんの短文事例問題集周回の参考になれば幸いです。

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