書評 『エクササイズ刑事訴訟法』

粟田知穂『エクササイズ刑事訴訟法』有斐閣・2016

初学者おすすめ度:★☆☆☆☆ 星1
既習者おすすめ度:★★★★☆ 星4

本書は、1問に何個か論点が混ざっている長文事例問題が16問載っている問題集です。

本書の良いところは、判例・学説についての説明が簡明であるという点です。また、著者は検察官出身ということで、解説が実務に沿ったものであるという点に信頼が置けるうえに、司法試験考査委員も務めていたということで、受験生ライクな演習書だと思います。ただ、出版している有斐閣が、本書を司法試験の長文事例問題を想定した演習書と位置付けていることからして、初学者用の問題集として作成されたものではないでしょう。

刑事訴訟法の問題集といえば『事例演習刑事訴訟法[第3版]』(古江頼隆著)、いわゆる“古江本”だと思いますが、古江本は教授と学生の会話形式で学説や判例についてじっくり解説しているので、解説の簡明さという点は大きな違いだと思います。どれぐらい差があるかというと、本書は問題と解説併せて150頁強なのに対して、古江本は550頁強となっています。

その他に本書の特徴を挙げるなら、本書のコンセプトにもなっている“長文事例問題”であるという点でしょう。この点は、本書を使う動機になりうると同時に、本書を使うのを躊躇する理由にもなると思いますので、詳しく書きたいと思います。
問題文はだいたい2頁から3頁(ちなみに本書はA5)です。これを「長い」と捉えるか「思ったより長くない」と捉えるかは人それぞれだと思います(私は、「長くないとは言わないけど、長すぎるということはないな」と感じていました)。ただ、仮に「長い」と感じたとしても、読み進めていくなかで問題文の事情を整理すると、各論点は、解説も併せれば十分に学部生でも理解できる難易度になっています。ぶんせき本や答案例付き問題集などで答案の型をある程度頭に入れていれば、答案も十分に書けると思います(私は学部3年のとき、所属していた刑訴ゼミの題材が本書だったので、答案を書いてゼミ教授に読んでもらっていました)。
ただ、「刑事訴訟法の問題文のどういう事情からどういう法的論点が生じるのかを、ある程度把握している」ぐらいの水準には達していないと、ストーリーが頭に入ってこなかったり問題文の事情を整理するという作業に支障が出たりしかねないので、解説込みでもヘビーに感じる可能性があると思います。そのような人は、まずは短文事例から取り組むと良いでしょう。

なお、私は初版を使っていたのですが、本書は2021年に2版が出ています。初版から2問追加されたということで、一層バージョンアップしているということですね。機会があれば2版も手に取ってみたいと思います。


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