書評『新判例から見た刑法[第3版]』

山口厚『新判例から見た刑法[第3版]』有斐閣・2015

初学者おすすめ度:★☆☆☆☆ 星1
既習者おすすめ度:★★★★☆ 星4

本書は、法学教室の連載がもとになった本で、刑法の重要論点についての判例·学説を分析した本です。一から刑法について説明する本ではない(網羅性という観点では、出題可能性があるのに扱われていない罪もある)ので、初学者が読むものではないと思います。実際、本書の初版はしがきによると、法科大学院法学既修者等を読者として想定しているそうです。

本書は、重要判例の正確な分析という観点では、非常に有用です。何となく「こう処理するんだよね」というようにアバウトに判例を把握していると、いざその判例の論点が出題されたときに、判例とはずれた規範定立·あてはめをしてしまう危険があります。本書を活用することで、重要論点について、一層正確な理解が可能になります。

私は、予備試験の口述対策として本書を読みました。大学の先輩からこの本が予備口述のネタ本らしいと聞いたからです。
書きっぱなしでいい論文と異なり、口述では、微妙な理解だとその場で追及されてしまうため、正確な理解に基づいて解答をすることが重要です。刑法は比較的得意科目だったので規範については網羅的に把握していましたが、答案で高速で書くために理由付けはコンパクトに覚えていたため、正確な理解をしている自負まではなかったので、本書で重要論点につき深く学ぶことができたのはよかったです。本書で理解が深まった部分について、論証集に書きこんでいくという形で勉強していましたが、終わってみると論証集が結構書きこみが増えました。
なお、実際に本書が予備口述のネタ本なのかという点については、信ぴょう性が高いとはいえない気がします。実際、本書にない論点がでている過去問はありますし、私が受けたのは犯人隠避や証拠偽造の問題だったので、本書にない論点でした。

ここまで、口述の話を結構してしまいましたが、刑法の重要論点を深く理解することは論文対策としても大切です。そのため、刑法をもう一歩ステップアップしたい人におすすめの一冊です。


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