書評 『会社訴訟の要件事実』

岩谷敏昭『会社訴訟の要件事実』新日本法規出版株式会社・2022

初学者おすすめ度:★★☆☆☆ 星2
既習者おすすめ度:★★★★☆ 星4

本書は、タイトル通り、会社法の要件事実を解説している本です。会社法上の主要な訴え·責任について、各当事者が何を主張·立証すべきかを説明しています。各訴え·責任につき、要件が列挙されて、各要件の記載例が書いてあります(イメージとしては、大島眞一『完全講義 民事裁判実務の基礎[第3版](上巻)』(民事法研究会·2019)の会社法版です)。
論点を含む要件(解釈が必要な要件)では、判例·通説的な立場から「こう判断します」ということを、コンパクトな理由付けで端的に示しています。要件事実という初学者にとってはハードめ内容ではありますが、会社法という観点ではコンパクトに解説してくれているので、初学者おすすめ度星2にしました。

本書を使って学習する際は、要件自体をおさえると同時に、その要件をどう解釈するのかというのも、頭に入れておきましょう。そこまで含めて要件だというマインドセットでいれば、答案構成の際は、淡々と要件に事実をあてはめていけばいいからです(念のため誤解のないように申し上げると、答案上では、解釈によって導かれる規範については、論証のうえ規範を立てています)。
例えるなら、私は、お菓子作りをイメージしています。作りたいお菓子(問題で問われている訴え·責任)を踏まえて、「型」(要件)を選択して、「具材」(問題文中の事実)を入れれば、お菓子ができあがるということです。お菓子の型は、お菓子ごとに、マフィンの型だったり、マドレーヌの型だったり、たい焼きの型だったり、色々な型があるでしょう。それと同じように、訴え·責任にも型があるということです。
お菓子をいちいち手で形づくっていては時間がかかってしまうし、クオリティにもばらつきがでてしまいます。これは答案で言えば、途中答案や、論点や要件の見落としにあたります。そういう意味で、「型」の把握は重要であると思います。

また、要件事実を学んでおけば、実体法上の要件のうち、何が抗弁に回るか把握できるので、「反論も踏まえて訴えが認められるか検討しなさい」みたいな問題だったときに、何が反論か想起しやすいというメリットもあります。

ここまで、私が思う要件事実の重要性について結構厚く書いてしまいました。それにもかかわらず、本書の既修者おすすめ度が星4なのは、一般的な論証集でも、それぞれの訴え·責任ごとに、要件が書いてあるからです。ただ、要件論·主張反論に絞って勉強したいのであれば本書を使った方が早いと思います。

なお、本書の著者は、司法試験考査委員経験者である弁護士なので、この点でも受験生ライクな本であると思います。会社法の答案の精度を一層上げたいという場合は特に手に取ってみる価値があると思います。


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